第56話 エピローグ

年が明け、陸上部では新しい部長と副部長を決めるミーティングが行われた。うちの部は自薦他薦は問わず候補者を出して、話し合って決める。予想通り航太こうたひかるが部長候補として選出された。多数決の結果、光が新部長に決まった。そして、僅差だったため男子副部長を航太に任せていいかと顧問の高橋先生が提案し、満場一致で賛成となった。女子の副部長は短距離専門の姉御肌な女子に決まった。

卒業式までにはまだ日はあるけれど、明日から僕たちが部を引っ張っていくと思うと、ちょっとむず痒い気もする。でも親友二人がその先頭を走る立場になったからには、僕もしっかりしなくちゃ。去年は色々あったけど、こうして晴れやかな気持ちで新しい年を迎えられたことに自信を持とう。今年は受験もあるし・・・。

「おーい、なにおセンチな顔してんだー?」

「また隠し事か?」

ミーティングが終わり、帰り支度をしていると新部長コンビがやってきた。

「おセンチでもないし、隠し事もしてない!」

「ほんとに~?」

「そんなことより、二人とも部長、副部長おめでとう」

「俺のカリスマ性は隠せないからなぁ」

「安心しろ、光は俺がちゃんと見張っておく」

早くも息はぴったり、といった様子だ。まぁ最初から何の心配もしていないけど。まだ少し二年生でいられるうちは、のんびりマイペースでいようかな。三年になったら大会も全部が最後なんだし、悔いのないように全力で臨みたい。だから、今はちょっとだけ・・・。

「先輩!」

後ろからよくとおる、聞き覚えのある声がした。振り返ると、木下きのしたが突進してくるのが見えた。

柳瀬やなせ先輩!高校どこいくんですか?!」

「え、高校?まだ第一志望は決めてないけど」

「決まったら教えてくださいね、あたしも行くんで!」

「はぁ?」

「彼女がいようが、あたし諦めませんから!」

それだけ宣言すると来た時と同じように自慢の健脚で走り去っていった。僕はすっかり面食らってしまい、しばらく呆然としていた。

晴人はるとくんよ、お前はいつからそんなモテる男になったんだい?」

「詳しく聞かせてもらおうか」

「知らないよ!彼女いないし!」

僕の中学最後の年も何だかんだと事件が起きそうな予感しかしなかった。


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僕らのマズルカ 清水円 @Mondenkind

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