第48話

お目当ての映画は最近話題の青春ラブストーリー。

はるかさんが選んでくれたもので、主人公は陸上部らしい。CMで見てそれだけは知っていた。

映画館は駅から少し離れた場所にあったけれど、道順もバッチリ頭に入っていたおかげで上映の時間よりだいぶ早く着くことができた。話題になっているだけあってチケットは売り切れの出ている時間もあった。幸運にも僕らが観る予定の回は少しだけまだ空きが残っていたようだ。

「はるかさん、パンプレットとか買います?」

「ううん、終わってから買う」

「売り切れちゃうかもしれませんよ?」

「でも・・・・今日のために何の情報も見ずに頑張ったから!」

これはかなり本気で楽しみにしてたんだな。ここはひとつ。

一先ず飲み物とポップコーンを買って、早めに座席へと向かった。そこからはるかさんのマシンガントークが始まる。好きなことに関する好奇心が人一倍なのはショパンの件で確認済みだったが、こちらも負けず劣らずだった。どうやら今回の映画を撮った監督のファンらしい。これまで作品は当然のごとく全て観ていて、僕が知らないと言うとこれでもかと丁寧に教えてくれる。ネタバレにならないようにするのが本当にもどかしいといった様子で楽しかった。

そして、上映時刻が近づき頃合いを見計らった僕はトイレへ行くと言って席を立った。それは建前。本当の目的はパンフレットを買いに行くこと。予想していた通り、来た時より大幅に数が減っていた。映画のパンフレットって意外に高いんだよな。ちょっと痛い出費ではあるが、不思議と惜しい気持ちはなかった。

「おかえり~」

「はるかさん、これなーんだ?」

「え?」

「僕の言った通り、なくなりそうでしたよ?」

「もしかして・・・!」

「映画終わるまでは、おあずけですけど。今日のお礼ってことで」

そうこうしているうちに上映開始のアナウンスが流れてきた。



「・・・・」

映画が終わり、ざわざわとスクリーンから人が出ていく。僕はしばらく黙ったまま、はるかさんの隣で待っていた。

はるかさん、映画とかで泣いちゃうタイプなのか。

こんな時、なんて言ってあげるのが自然なんだろう?話にはよく聞くし知らない人が泣きながら映画館から出てくる場面には遭遇したこともあるけれど、僕自身が身近に体験するのは初めてで、どうしたらいいのか分からずちょっと途方に暮れた。

気が付くとスクリーンには僕らだけしか残っていなかった。さすがにそろそろ動かないとまずい。

「はるかさん、あの、大丈夫ですか?ひとまず、ロビー行きません?」

「ごめんね・・・すぐ出る」

ハンカチで鼻と口を押さえながら急いで荷物をまとめ始める。やはり恥ずかしいのか僕から顔をそむけっぱなしだ。ずびずびと鼻をすする音がする。ここでティッシュの一枚でもサッと差し出せたらいいんだろうけど、生憎ハンカチしか持っていなかった。

スクリーンから出るとすぐ、はるかさんがソワソワとあたりをうかがう。

「ごめんね、お手洗い行ってくるね」

「はい、ロビーで待ってますね」

僕は飲み物とポップコーンのゴミを捨て、空いている椅子に座って彼女を待った。ケータイをいじりながら、この時間をかみしめる。なんか、デートしてるって感じだなぁ。

十分か、もう少し経っただろうか。小走りではるかさんが戻ってきた。映画が始まる前とうって変わってしょんぼりとした顔で、目も少し腫れている。僕は気にしてないのに。はるかさんの他にも泣いているお客さんはいたし、僕だってちょっとグッときた。何ならすごく純粋に感動して涙を流す姿を見て、可愛いなとさえ思った。

「良い映画でしたね。さすがはるかさんチョイス!」

「そう言ってもらえると、嬉しいな」

「また色々聞かせてくださいよ、ご飯食べながら」

「思い出して泣いちゃうかも」

そう言ってはるかさんは照れながら笑った。


僕たちは映画館を出て、ファミレスかファストフードの店で遅い昼食をとろうと駅の方へ向かうことにした。たわいのない話をしながらのんびり、並んで歩く。まだ目の腫れはひいていないけれど、すっかり笑顔が戻っていた。


柳瀬やなせくん?」

突然、誰かが僕を呼び止めた。

声のする方を見ると、そこには東堂とうどうさんが立っていた。

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