第2話
「ラストあげてけー!・・・はい5分15・16・17・18・19・20・21、お疲れさーん。そのままゆっくり歩けー、止まるなー。落ち着いたらダウン行っていいぞー」
グランドを照りつけていた日差しが少し和らいでいた。
1500mを走り終えた体に、時折スッと吹く風がたまらなく心地いい。
あちらこちらでそれぞれの種目に打ち込んでいた部員も道具を片付け、クールダウンのためのジョギングの列に加わった。
「
帰り支度の前に水を飲んでいると、顧問の高橋先生が隣に立った。
夏の大会を控えた時期としては僕のタイムは満足のいくものではなかった。
「未経験者ながらこの一年でここまで上げてきたのは立派なもんだ。ただ他の奴らに比べると、まだ少しタイムが欲しい。・・・お前、ちゃんと食ってるか?」
「食欲の鬼です」
「にしては相変わらず細いなぁ」
僕はちょっとしたもやしっ子だ。体力は並だけど、色白でひょろ長い。
部活のおかげでひ弱そうな見た目からはだいぶ抜け出せたが、縦と横の幅に生じている差は大きいままだ。中学入学時に176cmあった身長は今も記録を更新中で、180cmに迫らんとしている。体重はたしか57kgが一番最近の数字だ。
ついでに言うと小学生の頃は、柔らかくクセのない髪を男子の割に少し伸ばしていたばっかりにそのシルエットから、付いたあだ名は「つくし」。「綿棒」といってきた奴もいたけど、「名前が“はると”だから、春に生えてるつくし」が採用されたんだそうだ。同級生ながらなかなかのセンスだと思う。僕の名前は
しかし中学では何としてもつくしくんから脱却すべく、髪を切り、眉毛もちょっと整えたりなんかして、足は言うほど速くなかったけれど思い切って陸上部に入り、爽やかスポーツマンとして中学デビューを果たしたつもりだった。
入部当初、専門を決める段階でこの身長を生かせる高跳びを勧められた。ハイジャンパーか、カッコいいじゃんなどと思ったど素人の僕は、その後どうしても背面跳びができず1500mに転向した。しかし現実は甘くなく、この約1年で何とか食らいついていけるまでにはなったが他の中・長距離メンバーからはたしかに遅れを取ってしまっていた。
「ま、食えてるならとりあえず大丈夫か。お前の場合、どうも栄養が縦方向にいくみたいだな。・・・冗談はいいとしてタイムは伸び悩んでるが3000mの距離走もこなせてるし、その身長は武器にもなる。まだまだ苦労するだろうが必ず結果は付いてくる。焦って故障するなんてことだけはするなよ」
「はい、頑張ります」
同期の男子連中を追いかけて、賑やかに帰り支度にとりかかった。
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