第41話

翌日から、航太こうたは僕ら二人と一切口をきかなくなった。

チャットアプリで話しかけてみたけど、返事はおろか読んでいる気配すらない。部活で顔を合わせても目も合わさず他の同級生や後輩とだけ挨拶や言葉を交わす姿は、周りから見ても異質に映り、すぐに僕らの間で何かあったことは部内に知れるところとなった。短い秋が駆け足で去っていこうとしているこの時期、それは駅伝シーズンの開幕が迫っていることを意味している。みんなもちろん友達として、部の先輩後輩といった仲間として純粋に心配してくれているのと同時に、陸上部全体として駅伝の主力となる中・長距離陣にトラブルを抱える事態に少なからぬ不安を与えてしまっていることが申し訳なくてたまらなくなった。

幸か不幸か駅伝の心配をする前に中間テストが待っていた。本当なら大会が近いこの時期のテストは輪をかけて憂鬱な代物なのだけれど、今回ばかりは少しの間だけ勉強に追われることで、航太とのことを忘れられる。いつもはテスト前は三人で集まって勉強するのだが、ひかるも一人になりたいとみえて何の連絡もない。一度距離を置いて、落ち着いて考える時間が必要なんだ、きっと。


ピロリンッ


夕飯を食べてお風呂に入り、一息つきながら悶々と考えていると突然ケータイが鳴った。はるかさんは夜遅くなりとあまり連絡はよこさないはずだけど。

チャットアプリの通知を見ると、木下きのしたからだった。


あかり:こんばんは!今、時間大丈夫ですか?


柳瀬:大丈夫だよ。そんなあらたまってどうした?


ピロリンッ

あかり:最近、航太先輩と話してるとこ見ないなと思って・・・なんかちょっと気になっちゃって。


柳瀬:心配かけてごめんな。テストもあるし大したことじゃないから、しばらく見守っててくれると助かる。


ピロリンッ

あかり:なんか余計な事聞いちゃってすみません!あたしで良ければ何でも聞くんで!

じゃ、テスト頑張りましょうねー!


柳瀬:ありがとう!補習で部活休まないようにな笑


なんとも健気な理由で送ってきてくれたのに、開くまでちょっとドキドキしていた自分が恥ずかしくなった。先輩ならいざ知らず他の後輩なら絶対に聞きたくても聞いてこないだろうけど、木下は本気で気遣ってくれてるような気がした。だから敢えて真正面から聞いてくれたんだろうし、先輩である僕の相談に乗ろうとしたんじゃないか。あいつにはやんちゃで明るいだけじゃなくて、優しくて熱いところがあることをここ最近の諸々で知った。正直に言ってしまいたい気持ちも沸いたけれど、これは僕らの問題だし、僕は自分で考えて解決しなくちゃいけない気がするのだ。いったい何人を巻き込んだら気が済むんだろう。早く二人と元の関係に戻らなくちゃ。



こんな時でも休み時間になるとしっかり音楽室へ足が向かうのだから、習慣とは怖いものだ。さすがの僕も頭がパンクしそうで、はるかさんを前にしてつい上の空になってしまっていた。

「晴人くん?」

「え、はい?どうかしました?」

「それは私のセリフ。すごくボーっとしてる」

航太や光の話は、はるかさんにも色々していたからそんな友達と喧嘩してしまったことを彼女に言うべきかどうか、迷った。僕の見栄なのか二人の名誉を守るためなのか様々な思いがないまぜにになって、返事とも何ともつかない声しか出てこない。

「わかった、テストでしょ。来月大会もあるんじゃなかった?」

「あー、その・・・何で分かるんです?」

「ふふ、それは私が先輩だからってことで」

得意げに笑うはるかさんの顔を見てちょっとだけ良心が痛んだけれど、半分は当たっているし彼女の勘違いに乗っかることにした。僕自身で解決すると決めたし、はるかさんにはこのまま無邪気に笑っていて欲しい。しかし、彼女の提案を聞いた時その判断を少し後悔した。

「じゃあさ、こうしない?テストで平均点より良い点がとれたら、遊びに行く」

「いいですね!部活の奴らと息抜きに・・・」

「もう、なんでそうなるの?」

「え?」

「部活も勉強も頑張っている晴人くんに、私からのご褒美!」

はるかさんは顔を真っ赤にして、窓の外を見ていた。

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