第13話
全国大会の予選にあたる地区大会が終わり、県大会に進んだ部員もいたが元々強い学校でもないため皆ここで本選からは離脱した。僕は県大会にも後一歩で進めず、またしても納得のいかない結果となった。悔しかったけれどなんとか切り替えて航太たちの応援に回り、期末テストの勉強に追われたりしながら、ようやく夏休みに入った。とは言っても、記録会のような小さな大会はまだ残っている。夏休みの大半を相変わらず部活仲間と過ごし、マイペースに宿題とたまのレジャーを楽しんでいたら、驚くような速さで時間が過ぎていった。
そしてやっぱり、あの惚れ薬の効果を試すことなく夏休みの終わりが近づいてくる。
女の子と縁遠い僕だったが、夏の一大イベント、夏祭りへは案の定陸上部のメンツで行った。ただ、そこに光の姿はなく、肝試しの時のあの話を聞いていた航太と僕は少しそわそわしながら過ごした。
「どうだったんだろうなぁ、光」
「さぁな」
祭りには陸上部の後輩や女子も何人か一緒に行った。普段は半袖のTシャツやランニングパンツから真っ黒に日焼けした筋肉質の腕や足を惜しげもなく晒している彼女たちも、さすがに女の子で、揃って浴衣を着てきた。いつも走る時は髪をまとめているし、うなじなんて飽きるほど見てきたはずなのに、浴衣の襟から覗く首すじに、不覚にも目が釘付けになる。中でも、一つ下の後輩で短距離選手の
「馬子にも衣装というやつか」
「え、何が?」
「木下だ」
女子にはとんと無頓着な航太が珍しく関心を示していた。いつもの木下を知っている人なら、だいたい同じ意見になるとは思うけれど、あんまりしみじみ言うもんだから、なんだか
可愛いじゃん。
しゃなりしゃなりと控えめに歩く度に揺れる、あの浴衣の下には逞しい足が隠れている。僕はもちろん知っている。それなのに、時々目で追ってしまう。祭りの雰囲気に飲まれているのか。光の告白話に影響されてしまっているのか。好きでもないりんご飴を2つも買った。
木下を可愛いと思う日が来ようとは。
家に帰ってもあの紺色の浴衣がちらついている事実に、戸惑いを隠せなかった。
「別に、木下のことがってわけじゃなくて、浴衣が」
甘ったるい赤い飴を舐めながらぼんやり考えた。しかし否定すればするほど、その度に彼女の姿が頭に鮮明に浮かんでしまう。
「んー、不本意だが・・・」
勉強机に目を向ける。
「よし」
意を決して立ち上がり、真ん中の引き出しを限界まで開けてそのまた奥へ手をつっこんだ。
「使ってみるか」
緑色は少し減っているのに、ピンクはもらった時のままなのが、さらに僕を後押しした。
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