第44話
駅伝大会当日。
僕はタイムトライアルの結果、無事にAチームに滑り込むことができた。スパート直前には先頭集団にいたはずの
最寄りの駅で電車に乗ると、一つ前の駅が最寄りの航太と光を含めた数人がすでに乗っていた。本数が少ないからだいたいみんな一緒に行くことになるのだけれど、お喋りに興じるグループと静かに座っているグループに何となく別れていて、それぞれの筆頭が僕の友人二人だった。部長と何人かの先輩は先生の車でテントなどの大きな荷物を持って現地へ向かうことになっていて、自然に二年生が中心になって引率する雰囲気になる。それに加えて、持ち前のリーダーシップがそうさせるのだろう。
「晴人~、おはよ~!緊張で寝坊しなかったかい?」
同じチームになったからにはここで航太とコミュニケーションをとるべきか否かと迷っていると、僕に気づいた光が早速冗談を飛ばしてきた。それに答える形でそのままそちらのグループへ混ざりに行く。
「航太、おはよ」
前を通り過ぎる時、ダメもとで挨拶すると僕の顔をチラっと見上げると片手を挙げて無言の挨拶を返してくれた。あれだけ頑なに話してくれなかった反動なのか、それだけですごく嬉しかった。
さらに僕の気分を上げてくれる出来事がまた一つ。ウィンドブレーカーのポケットに入れていたケータイが振動したので見てみると、はるかさんから連絡が来ている。何かと思ってアプリを起動する。
はるか:おはよう!今日駅伝の大会って言ったよね?がんばれー♪
映画の約束をした時にチラっと話しただけだったのに、覚えててくれたなんて。
僕、もしかして、浮かれてもいいやつ?
「おやおや?何ニヤニヤしてんの?」
光は本当に目聡い。そしてそれを聞きつけた周りの奴らも集まってくる。
「何でもない!断じて!」
焦って隠したけど、逆効果だったのか女の子からだろうと騒ぎ始めた。声の大きさも教室の中みたいな音量で、かなりうるさくなってきた。まずい。
「落ち着け、皆の衆!俺らかなりうるせぇから」
てっきり航太や先輩に怒られると思ったら言い出しっぺの光がすぐに諫めた。同級生たちも電車の中だということを思い出してすっかり大人しくなった。
「ほら、女子の視線がめちゃ痛いぞ~」
「電車だからってテンション上がりすぎだから!田舎者ぉ~」
しかも上手いこと話題をそらして、僕にはこっそり手を合わせて申し訳なさそうな顔をする。さすがというか何というか、これが次期部長候補の視界の広さなのかと妙に感心してしまった。
そうこうしているうちに集合場所の駅に到着し、先生たちとも合流した。
会場は近くの中学校でコースは校庭とその周辺。校庭の一角に陣取り、ブルーシートやテントの準備をする。夏の大会で散々建てたので一年生も慣れた様子で作業を進めていた。そしてこの大会のお楽しみといってもいいアイテム、トランシーバー。これを持ってレースに出ていない部員が二人一組で一km地点、折り返しなどのポイントにスタンバイし、通過タイムなどを記録したり連絡しあうのだ。今回は女子のレースからとのことで、まず男子部員に渡される。ここでお約束のあのセリフ。
「レインボーブリッジ、封鎖できません!」
もはや毎年恒例というか、言わずにはいられない魔法の言葉。
「遊んでないで早く位置につけー」
「はーい」
僕はペアになった後輩を連れて指定されたポイントへ急いだ。
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