第7話
7章
「へぁ!?」
無防備にお参りしているところへ、後ろから声をかけられたものだから心底驚いて奇声をあげてしまった。
「なんちゅう顔してるだ?拍子抜けしちまっただわ」
そこにはいたのはおばあさんだった。少し曲がった腰に片手を回して立っていて、掃き掃除をしようとしていたのか、小学校で見るような竹箒を柄を下にして持っていた。歳は70、80歳くらいで白髪交じりの長い髪を後ろで緩く束ねている。和装で、たぶんこの神社を管理している人なのだろう。
「ぎゃーぎゃーやかましい声が聞こえたもんで、またおかしな輩が来たのかと思ったら、なんだい。追っ払ってやるつもりだったに、これで」
おばあさんは持っていた箒で地面をコンコン叩いた。
「まぁ、おらが近寄ってっても気付かんくらい熱心にお参りしとったのは褒めてやろう」
「はぁ、まぁ・・・」
どこを通ってきたのか半ばパニック状態でちゃんと覚えてないけど、こんな奥まった不気味な場所だから参拝に来る人もいないんだろう。僕がちょっとお参りしてたくらいで出てくるんだから。そんなことを考えているとおばあさんが僕の顔をじっとみて言った。
「お前さん、女と付き合ったことないだろ?」
「え?」
その時吹いた初夏の爽やかな風は、ひどく冷たかった。認めるのも悔しくて、だからって嘘をついたってしょうがない。でも、もう会うこともないかもしれないおばあさん相手にちょっと見栄を張ったところで誰も損するわけじゃないし、僕だって・・・。
「図星って顔だねぇ。ぼーっと過ごしてるわけじゃなさそうだが、今一つってとこかいね」
おばあさんはしたり顔で言い放つ。
「さっきだって『恋人ができますように』だとかお祈りしとったんだろ?」
「あっ、い、いや、その、別に、」
あからさまにしどろもどろな返事を聞いて、おばあさんはますます鼻を膨らましている。自分でも顔が赤くなっているのがわかった。照りつける夏の暑さとは別のものが、胸の奥らへんからぎゅっとこみ上げてきて、熱い。
「また情けない顔して、そんな恥ずかしがらんでもいいわね。久しぶりにお参りに来てくれた子だで、ちょっと待ってな」
うってかわって上機嫌になったおばあさんは、僕の返事も聞かずにお社の裏手の方へ引っ込んでしまった。
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