第53話
学校から帰るといつものように、はるかさんからメッセージが届いていた。しばらくは普段通りやり取りしていたけれど、意を決して聞いてみる。
ぐずぐずしていたら、また逃げてしまう。
少し間があってから、ようやく返信がくる。
ピロリンッ
はるか:日曜日なら大丈夫かも!
柳瀬:分かりました!無理言ってすみません。どうしても直接話したいことがあっ
て。
ピロリンッ
はるか:場所はどこがいいかな?
柳瀬:僕、近くだと公園とかしか知らなくて・・・流石に寒いし、はるかさんの行き
やすいところでどこかあれば教えてください。
ピロリンッ
はるか:じゃあ、「ねこのしっぽ」っていう喫茶店があるんだけどそこでいい?
地図送るね!
日曜日の昼過ぎ、送られてきたお店のHPの地図を頼りに「ねこのしっぽ」へ向かった。隣町の住所だし迷うことも考慮にいれて早めに出かけたけれど、案外分かりやすい場所にあったおかげではるかさんより先に着いたみたいだ。駐車スペースの端にあった駐輪場へ自転車を停め、入口の側で待つことにする。
「お待たせ」
連絡が来るだろうとぼんやり待っていたところに、声をかけられ驚いた。しかし、そんなことよりももっと驚いたのは、はるかさんの髪がすごく短くなっていたことだ。
「髪、切ったんですか?」
「どうかな?」
「ちょっとびっくりしたけど、素敵です」
そう言う僕の顔を見て、ふふっと小さく笑った。もう少し話そうか迷ったけれど、はるかさんがすでに慣れた様子でお店のドアを開けて入ろうとしていたので、慌てて後を追った。
店内は明るく開放的な雰囲気で、椅子やテーブルは柔らかい色合いの木材で統一されていた。「ねこのしっぽ」という名前だけあって猫の形をしたものがそこかしこに散りばめられている。
「お好きなお席へどうぞ」
はるかさんは店員さんに軽く会釈をして、迷いなく奥の席を目指して進んだ。僕らは窓際の席に向かい合って座った。
「会うのは久しぶりだね」
「そうですね」
「なんか緊張しちゃう」
「僕もです」
ぎこちない会話が続く。そんなタイミングで早々と注文した飲み物が運ばれてきた。店員さんが救世主に見えた。はるかさんの前ではカフェオレが、僕の前では紅茶がそれぞれふわふわと湯気を立てている。
「それで、話ってなに?」
「・・・・」
僕はお冷を一気に飲んだ。そして、覚悟を決める。
「僕、はるかさんに嘘ついてたことがあるんです」
今までのことをすべて打ち明けた。嘘というには大きすぎる過ちかもしれないけれど、出会ってすぐに惚れ薬を使っていたこと。惚れ薬はもう処分して何の効力もなくなったこと。でもはるかさんへの気持ちに嘘はなく、今あらためてまっさらな自分のままで、その気持ちを聞いて欲しいこと。
「あの音楽室で、初めて会った時からずっと・・・・」
「初めてじゃないよ」
はるかさんは少し寂しそうに、何故かどこか嬉しそうに言った。
「どういうことですか?」
今度は少しいたずらっぽく笑う。
「だって、あの時あなたは私のこと、男の子だと思ってたから」
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