第50話
僕らの関係に二つの変化が起きた。一つ目は連絡がくる頻度が上がったこと。部活から帰ると必ずと言っていいほど、はるかさんからメッセージが届いていて、毎日色んな話をした。映画の話や最近読んだ本の話、話題を提供してくれるのは彼女の方が多かったけれど、僕もDVDを借りて観たりおススメされた本を読んだりして会話を楽しんでいた。二つ目の変化は、はるかさんが休み時間に音楽室へ来なくなったこと。デートして最初の登校日に、いつものように音楽室へ行くとそこには誰もいなかった。一回来なかったくらいで「どうしたんですか?」なんて聞いたらめんどくさい奴と思われそうだったし、たまたまかと思って特に気にしないことにした。しかし次の日もまた次の日も、四日目には知らない女の子が三人で何か話していて、慌てて引き返した。さすがに心配になって、その日にメッセージアプリで聞いてみたら、「受験対策の補修でいけない」とのことだった。忘れていたわけではないけど、はるかさんは三年生で今は受験勉強真っ只中。
でも僕は一つの結論に達していた。
やっぱり僕のことを好きでいてくれているんだし、デートの途中で他の女の子と話し込んでるとこ見たら、不安にもなるよな。あの時の東堂さんも、はるかさんに対してすごく棘がある言い方というか当たりがキツかったけど、もしかして・・・。
部屋の天井を見るともなしに見ていると、勝手に二人の顔がぐるぐると頭を巡る。
東堂さんの顔。
僕に小瓶を握らせて去って行く直前の、あの目。
あの場面になると頭の中で一瞬だけ何かが横切っていく。
なんだろう、どっかで・・・・見た?
記憶を懸命に辿っていくと、だんだんパズルのピースがはまっていくように、はっきりと件の何かが浮かび上がってきた。
「
鬼ごっこの最中にハグを迫った時の木下と、同じだ。
失恋した女の子の顔。
僕はその時初めて惚れ薬の恐ろしさに、自分がしでかした過ちに気づいた。
僕がはるかさんに心奪われたように、誰かが誰かを好きになる。そしてそれが一人ずつとは限らない。僕のようにはるかさんのことを好きな人がいたかもしれない。僕が好きにさせた木下や東堂さんのことを好きな人だって当然いたはずなんだ。はるかさんや東堂さんや木下や、惚れ薬を使った全ての人が本当に好きだった人だって。そのどちらも僕は捻じ曲げた。そして僕がはるかさんを選んだから、するはずじゃなかった失恋をさせてしまったんだ。
それだけじゃない。僕は友達さえも傷つけてしまった。
僕は震えが止まらなくなった。
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