まるで戦だよ





 トリルの古城に潜む黒ローブ達は、城の塔からその光景を、目を見張って眺めていた。



 炎に身に纏った怪物が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


 その様子はまるで、某もののけ姫に出てくるタタリ神のようであった。



「な、なんだあれは」


「帝国騎士団のようです」



 刺客のリーダーから報告を受けた1人が言った。



「まさか、あのような者は見たことがないぞ」


「もしかして、あの伝説の第1帝国騎士団ではないでしょうか?」


「それも……ありえることだ……」



 黒ローブは、手が震えている。



「あのお方に連絡しろ。緊急事態だ」


「はい」



 そう言って街道から目を逸らした一瞬だった。


 目の前に、修羅がいた。


 黒い文様の中で光る、ギョロっとした眼球が黒ローブを捕えていた。



「ひぃっ」


 黒ローブの身体は、炎に包まれた。










 古城は、鳳来が辿りつく頃には、炎と断末魔の悲鳴に包まれていた。



「私は、とんでもないものを生み出してしまったのかもしれない」



 そう言うと、鳳来はスッと城の中に忍び込んだ。



「神宮が暴れてくれてるうちに、詠那達を探しにいこう」



 






「ちょっと、何が起きてるの?」



 イギルは、腕を組んでイライラしながら言った。



「すみません、帝国騎士団が攻めてきたようです」



 黒ローブがおろおろしながら言う。



「はぁ? 万全だって言ってたじゃない!」


「すみません」


「まったく、今回は楽に仕事だと思ったのに」



 そう言うと、イギルは椅子から立ち上がった。



「帝国騎士団なら、ギャラ、倍にしてもらわなきゃ」











「なんか騒がしいわね」



 詠那は隠し持っていた煎餅を頬張っていた。


 魔法の縄はすでに解けてるようだった。



「そうですね、真咲さん達が助けに来てくれたんでしょうか」



 サリアと時子似の女性も煎餅をかじっている。



「あなた方、どちらの領の騎士ですか?」



 不意に、時子似が尋ねた。



「サルバだよ」


「サルバ……なるほど、そうですか」


「どうかしましたか?」



 煎餅を咥えながら、サリアが言った。



「いえ、珍しいですから」


「そうなんだ。まぁ、あたし達はちょっと事情が違うからね」


「事情?」


「うん、実は――」



 詠那の言葉を遮るように、牢屋の扉が吹き飛ばされ、白目も向いている黒ローブが吹っ飛んできた。



 そこに現れたのは、鳳来だった。



「ヒナ!」


「雛月、来てくれたんですね」



 詠那とサリアは鉄格子に飛びかかった。



「さぁ、すぐに行こう。ここも危ない」



 その時、爆音と共に城が揺れた。



「きゃあ、なんなの?」


「神宮だ……」


「え、神宮?」




 鳳来は牢屋の鍵を爆破した。





「早く行こう、神宮が危ない」




 色々な意味で――

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