体操服姿の詠那と楽しい体育の授業
「83、84、85……」
「驚いたな」
詠那は、木の剣を、整った姿勢で、一直線に振り下ろす。
その動作と共に、詠那の額から、きらりと光る汗の粒が飛び散り、その豊満な胸が揺れる。
少し小さめの服を着ているので、胸の形がはっきりとわかる。
一方、同じように隣りで木の剣を振る神宮は、
「31、32、さ……」
カラン、と木の剣を地面に落とし、地面にへたれ込んだ。
「あぁ、もうだめだぁ」
「コラ神宮、なにサボってんのよ」
詠那は木刀を振る動作を止める事無く、横で地面に突っ伏している神宮に言った。
「だってこんなの、100回も無理だよ」
「あぁ? なに甘えたこと言ってんのよ。86!」
という掛け声と共に、詠那は牙突の要領よろしく木の剣の先で神宮の尻を突いた。
「はうぁ!」
「ほらほら、立ちなさい! 87! 88!」
詠那はガンガン神宮を切っ先で突く。
「あうっ、あぁっ、き、気持ちいい!!!」
「き、キモい!」
詠那は木の振り上げ、思いっきり振り下ろした。
「ぎゃああああああ」
詠那のスマッシュヒットが直撃し、神宮は気を失った。
「本当に信じられん。素人以下の、村人NPCその1のようなあの男が、魔法剣の使い手だというのか」
木の剣を振る2人の後ろで、ガルヴィンは唖然としていた。
「はい、真咲さんは確かにあの時、高度な技である魔法剣を放ちました。真咲さんは、まだ力を隠し持ってるものと思われます!」
サリアはそう力説したが、真咲のそれはただのエロパワーであった。
人よりも強い煩悩のエネルギーが、真咲の奥で眠っている潜在能力を引き出すのだ。
ある意味、隠し持った力とも言えなくもないが。
「まったく信じられん」
「そういうお主も、神宮の力を認めているのではないか? そうでなかったら、あの時引かなかったはずだ」
鳳来が言った。領主ファリプの部屋の前での事だ。
「確かに、奴には何か、他の者にはないものを感じた。だが、それよりも、あの時神宮の後ろでお前達3人が物凄い殺気を放っていたではないか。1ミリでも動いたら殺す、と言わんばかりだった。生きた心地がしなかったぞ」
「ふん、今神宮に死なれては私の計画がダメになってしまうからな」
そう言った鳳来だったが、サリアは、神宮は仲間たちに愛されているのだと感じ、微笑んだ。
訓練頑張って下さいね、真咲さん。
詠那に文字通り鞭を打たれながら剣術の訓練を終えると、次は魔術の訓練だった。
教官として現れたのは、厚化粧の熟女だった。怪しげな紫のローブを頭から被っている。
「私があなた達に魔術を教えるガーネットです」
胡散臭そうなガーネットだったが、魔術の腕は確かだった。教え方も上手で、詠那はすぐに飲み込んだ。
「安曇野さんは筋が良いわね。神宮君は全くの素人みたいだがら、基礎からじっくりやっていきましょう。炎レベル1の魔石を魔具にセットして、まずはファイアーの魔法を唱えてみて」
「は、はい」
真咲はドキドキしていた。
とうとう僕も、夢にまで見た魔法を使える。
魔法を自由自在に扱える様になったら、風の魔法を駆使して、女子のスカートをめくり放題だ。ヒヒヒ……
「神宮、なにニヤニヤしてんのよ」
横で詠那が睨んでいた。神宮の良からぬ考えを読み取っているみたいに。
「な、なんにもないよ。それじゃあ、いくよ」
神宮は、両足を肩幅ほどに開き、少し腰が引けた体勢で、両手を前に押し出して手の平を開いた。
「ファイアー!」
すると、神宮の手の平からソフトボールほどの炎の球が出現した。
「おおお、僕にもできた!」
「やるじゃない」
「ふふふ、凄いだろ?」
神宮がそう言ってドヤ顔をした時、炎の球から火花が散り、神宮の爪の先に当たった。
「アチチチチ!」
爪が少し焦げ、独特の匂いがする。
「ちょっと、大丈夫?」
「アチっ、あっ」
神宮は両手を離してしまい、炎の球は神宮の下半身に落ち、ズボンに燃え移った。
「ぎゃあああああああ」
「ちょっと、なにやってんのよ。ウォーター!」
詠那が唱えた水の魔法で、神宮のズボンに燃え移った炎は鎮火した。
しかし、焦げ落ちたズボンの奥から、ぴょこっと神宮のリトルモンスターが顔を出していた。
「あ……」
詠那の瞳には、神宮のリトルモンスターが鮮やかに映っていた。
そして、詠那に見られたことにより興奮した神宮のリトルモンスターは、最強のベヒーモスへと進化を遂げだ。
「き……きゃあああああああああ!」
その詠那の叫び声と共に、晴れ渡っていた空は暗くなり、どこからか地鳴りが聞こえてきた。
すると、山の向こうから、竜のような姿をした水の塊が、物凄い勢いで神宮目がけて飛んで来た。
「え、え、え?」
水龍は、股間を丸出しにした神宮を一飲みすると、激しく破裂した。
そして物凄い量の水が飛び散り、辺りにバケツをひっくり返したような豪雨が降り注いだ。
近くで見ていたガルヴィンはびしょ濡れになったが、鳳来が突如背中から取り出した傘のおかげで鳳来とサリアは相合傘で濡れずに済んだ。
「リ、リヴァイアサン?」
ガーネットはずぶ濡れになりながら茫然としていた。
神宮は、大きなクレーターの底で、残りHP3の状態で気絶していた。
「では、黒い月の偵察は、鳳来、サリア、タージェンに任せる」
「承知した」
「はい!」
「了解です」
ガルヴィン、鳳来、サリア、そして兵士のタージェンは砦の会議室で黒い月の討伐作戦会議をしていた。
タージェンは若い男性の兵士だ。一見優男のようだが、腕は確かだ。
「油断するなよ、黒い月の頭は相当の使い手だという噂だ」
「あぁ、分かっている。慎重にやる」
「それと、討伐部隊の神宮達だ。確かに潜在能力の高さは認めるが、経験が足りなさ過ぎる。すぐに実戦というには、やはりまだ早すぎる」
確かにそうだった。
神宮達は異世界に来て間もなく、戦闘の経験は少ない。
しかも、今回は、モンスターとは訳が違う。
戦い、奪うことに長けている、盗賊相手だ。
「その件だが、詠那と神宮をダリ山の訓練施設に入れようと思う」
鳳来が提案した。
「ダリ山か……しかし、あの2人にはまだ早すぎるんじゃないかい?」
タージェンが気の毒そうな表情をして言った。
「ダリ山の訓練施設ってなんですか?」
サリアが尋ねる。
「その昔、この砦の最初の領主が作った兵士の訓練場だよ。山の洞窟を利用した、天然のダンジョンさ。その洞窟の内部が結構険しくてね、力、知恵、そしてチームワークが必要とされる。更に訓練用のアトラクションも用意されていて、ゴールである山頂に辿りつくのはなかなかに困難だよ。もちろん、モンスターも出現する」
「だから良いではないか。短期間で強制的に鍛えられる。我々が偵察を終えることには、2人も成長出来ているという算段だ」
「うーむ、しかしなぁ」
「男ならピシッと決断せい、ガルヴィン!」
鳳来はピシッと人差指をガルヴィンの顔に突きつけた。
「わ、わかったわかった。ファリプ様に許可をもらってこよう」
「それでよい」
鳳来は席を立った。
「それでは早速、準備をさせる」
砦の兵士控室で神宮と詠那は休憩していた。神宮は頭に氷を乗せてベッドに寝ている。
ノックの音がして、扉が開いた。部屋に入ってきたのは、鳳来とサリアだ。
「詠那、お疲れさまです」
「ありがとうサリア。神宮のせいで変な魔法使っちゃったから、疲れちゃった」
「そうですよね、並みの魔術師じゃ使えないレベルの魔法ですし」
サリアは笑っていたが、水レベル1の魔石で上級魔法を放ってしまった詠那の潜在能力に感心していた。やはり、ただ者ではない。
「詠那、次の訓練だが、別の場所で行ってもらう」
「別の場所?」
「あぁ、ダリ山の訓練施設だ」
「え~? なんか大変そうだなぁ。でもまぁ、頑張るよ」
そう言って詠那は綺麗白い歯を見せて笑った。
「ヒナやサリアも一緒なの?」
「それが……」
サリアが申し訳なさそうな顔をした。
「すまない、詠那。私達は訓練施設には行けない。敵の偵察の任務があるのだ」
鳳来が言った。
「なんだ、寂しいなぁ。まぁでも仕方ないよね」
「あぁ。強くなって、故郷に帰る為だ」
「うん」
詠那は、リアル世界の事を頭の中に映し出した。
「で、訓練施設ではどんな事するの?」
「うむ、神宮と2人で山の洞窟に入り、頂上を目指してもらう」
「神宮と2人? 他の人は?」
「いない。洞窟には挑戦者しか入れないようになっている」
「え……」
詠那の表情が曇る。
「大体1週間ほどでクリアーできるそうだ」
「1週間も、神宮と、2人きりで山籠もり?」
次第に顔が青白くなる詠那。
「そうだ」
「このケダモノと……? い……いやあああああああああ」
「問題ない、神宮が変な気を起こしたら焼き殺せ。詠那の方が強いから大丈夫だ」
「え、詠那落ち着いて」
サリアは泣き叫ぶ詠那をなだめた。
鳳来は冷静に腕を組んでいる。
神宮は、寝たふりをして、しっかりと話しを聞いていた。
そして、心のなかでガッツポーズをしていた。
安曇野と、一週間2人きり。
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