苦労人の騎士たち




 

「神宮、右から1匹来てる」


「う、うん!」



 神宮は、飛びかかってきたゴブリンを剣で薙ぎ払った。


 ゴブリンは、光の粒となって消える。



 ゴブリンが落とす武器『ゴブリンコンボ―』は、売ればそこそこのヤッホを稼げる。



「やったぁ、またゴブコンゲット」






 神宮達、サルバの帝国騎士団一行は、今夜泊まる宿代を稼ぐのに必死になっていた。





「騎士団になったところで、何も変わってないような気がするんだけど」


「あの鎧売っちゃいますか?」



 騎士団として支給された鎧、一応アイテム袋(某4次元のようになっている)に入れてもしもの時の為に持ってきてあった。



「確かに、売れば良いヤッホになりそうだが、流石にそれはまずいだろう」



 装備は支給されたが、ケチなファリプはそれしかくれなかったのだった。




 4人いれば、宿代も食事代もその分かかる、更に都会に近づけば物価も高くなる。





 必然と、お金(異世界での通貨はヤッホ)がたくさん必要になってくる。





 日は、暮れかかっていた。





「早く2部屋分稼がないと、またあの変態と1夜を共にすることになってしまうわよ」



 詠那が叫んだ。




 安曇野、変態って、僕の事かい?





「いいじゃないか、みんな同じ部屋で、節約にもなるし」



 ニヤニヤする神宮。



 これがあるから異世界はやめられない。



「神宮だけ野宿にすれば良いではないか」



 鳳来は冷たく言い放った。



「え、そんな……」


「さんせー! 日が暮れるまでに稼げなかったらその案を採用しましょう」





 詠那と鳳来なら、本当にやりかねない。




 の、野宿は嫌だ……




「うおぉぉぉぉぉぉぉ」



 神宮はゴブリンを追いかけて森の中に消えて行った。



「真咲さん。大丈夫でしょうか」



 サリアが心配そうに神宮の背中も見つめていた。



「大丈夫でしょ。さ、あたし達は美味しいご飯代とお風呂代を稼ぐために頑張りましょう」


「そうですね、お風呂入りたいです! 頑張って稼ぎましょう」



 切り替えの早いサリアである。



 神宮は、お風呂に負けた。











 神宮達がトリルの街に着いた頃には、日が暮れていた。


 トリルの街は、サルバのように砦もないので街然としていて、安心感があった。


 街の通りに屋台が出てて、賑やかに人々が集っている。





 神宮達は道具屋でモンスターを倒して獲得したアイテムを売り、ヤッホに換金した。



「これなら2部屋借りられるわね!」


「1部屋でいいのに……」



 モンスター退治に走り回った神宮は疲れ切っている様子で、顔がやつれている。



「お腹すいたなぁ。ラーメンが食べたい」



 そう言ってお腹を抑える神宮。


 腰に下げたガーディヴァインが重そうだ。



「ラーメン食べたい! サリア、ラーメンはないの?」


「らーめん? なんですかそれ?」


「私は蕎麦が食べたい」



 鳳来はズズズと蕎麦をすする仕草をして見せる。



「そば?」


「スープの中に麺が入ってる料理よ」



 随分アバウトな詠那のラーメンだが、間違ってはいない。



「それらしきものはありますが、詠那たちの言うらーめんやそばと同じものかは分かりません」


「それもそうだな、この中世ヨーロッパ風の世界に和食があるとも思えぬ」




 ヨーロッパ、和食……


 安曇野達……、もうサリアにリアル世界から来たこと隠す気ないだろ。




 絶対そのうちバレるよ。




 でも、サリアならまぁいいか。




 むしろ、本当は早く話したいのだろう、2人とも。






「じゃあお宿取ったらご飯食べに行こう!」



 そう言って詠那は嬉しそうに腕を上げてブンブン振った。











「悪いねぇ、今日は1部屋しか空いてないんだ」



 カウンター越しの宿屋のオヤジは、不愛想にそう言った。





 神様、今夜も素敵な夜をプレゼントしてくれてありがとう。


 

 神宮は歓喜し、神への感謝の祈りを捧げた。


 



 その時、誰かが神宮の肩を叩いた。



 振り向くと、鳳来だった。



「うん、なんだい鳳来? 僕と一緒のベッドで寝たいのかい」



「神宮、野宿」




 その2つ単語を口にすると、鳳来は、突き出した親指を下に向けた。






「勘弁してください」



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