楽園、そしてあまりにも大きな代償
神宮は恐る恐る姿勢を変え、覗き込むようにして顔を詠那の真正面に向けた。
決して、起こしてはならない。
神宮は、汗1つ垂らしたら命取りになるような重要なミッションに従事しているスパイのように、慎重にゆっくりと1つ1つの動作を行う。
詠那は少し顔を俯かせているため、神宮は下から覗き込む体制になる。
決して詠那を起こすことなく、唇だけを接近させなければならない。
その為、身体が少し無理な姿勢になり、支えている手足がプルプルと震えた。
キツい体勢の中、神宮は、ゆっくりと、顔を近づける。
もう、鼻先に詠那の吐息を感じとれるくらいに近づいている。
もうここまで来たら、後はシュートを決めるだけだ。
キーパーのいない、開け放たれたゴールだけが目の前にある。
神宮は、鼻がぶつからないように更に顔を横に傾けた。
そして、ギュッと目をつむる。
唇に感じる詠那の吐息。
「……!?」
と、そこで、ぷるぷるいっていた腕が、無理な姿勢と身体の重さに耐えられなくなり、ぐにっと曲がって手が滑った。
「うわぁ!」
身体のバランスを崩し、倒れまいとして手を伸ばした神宮は詠那の肩を掴み、そのまま神宮が詠那に覆いかぶさるようにして2人とも一緒に倒れ込んでしまった。
「いてててて……、あれ?」
神宮の顔は、暖かいものに挟まれていた。
それは、詠那の柔らかな太ももだった。
そして、目の前には、詠那の禁断の園があった。
神宮はそのまま禁断の園に顔を近づける。
固い布越しではあるが、詠那の暖かい温もりを感じる事が出来る。
今度は、口でもふもふしてみる。
布を通して、少しだが詠那のそれを感じることが出来た。
しかし、そこで、禍々しい殺気に気付く。
神宮が詠那の股から顔を上げると、詠那が凍てつくような視線をこちらに向けていた。
「あ……」
「いきなりそこかよ……このド変態クズ野郎が!」
詠那の叫びと共に、大地が揺れ、地面が盛り上がり、岩のような身体を持った巨人が姿を現した。
「あ、安曇野、これはなに?」
神宮は尻もちをついて、後ずさりしながら巨人を見上げている。
詠那は神宮の問いに答えず、憐れむような様子も見せず、ただ、短く言い放った。
「殺れ」
詠那の合図で、巨人はその大岩の様な拳を神宮に振り下ろした。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ……」
巨人の拳は、神宮と共に地面を砕き、その衝撃で大地を粉砕させた。
詠那は、凄まじいオーラに包まれ、宙に浮かんでいた。
ガ―ディスは、ダリ山の麓にいた。
目の前には、訓練施設入り口である大きな扉がある。
「訓練中に扉を開く事は禁止されている。しかし……」
扉の鍵を取り出し、鍵穴に入れようとしたその時、山の上の方から爆音がした。
「なんだ?」
ガ―ディスが見上げると、山の中腹から大砲が放たれたように、煙と共に何か黒い塊が飛んできた。
その黒い塊は、ガ―ディスの傍に落下した。
ガ―ディスは警戒し、大剣を構えた。
いつでもモンスターが飛び出してきていいように、隙のない動きで落下地点に近づく。
煙が収まり、大きく開いた穴の中を覗き込む。
「じ、神宮じゃないか! どうしたのだ?」
落下してきたのは、神宮だった。
全身血だらけで、瀕死の状態である。
ガ―ディスは大剣を投げ捨てて神宮を穴から拾い上げた。
「一体なにがあったのだ?」
「い、岩の、巨人……」
そう言って、神宮はゆっくりと瞳を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます