貴重なJKのボディが……
「大丈夫か!?」
鳳来が、崖から身を乗り出して下を覗き込み叫ぶが、黒い噴煙で真下の様子は全く見れない。
「詠那、サリア!」
その時だった。
崖の下の黒い噴煙の中から、すっと白い手が伸びてきた。
「あたしも懸垂はよくやったから得意なのよ」
それは、切り立った崖から飛び出した岩にぶら下がっている詠那の小さな手だった。詠那は左手で岩を掴んでぶら下がり、右手でサリアの腕を掴んでいた。
「詠那、すみません」
申し訳なさそうにそう言ったサリアは、崖に頭を打ち付けたのか、額から血を流している。
「今引き上げる!」
そう言って、鳳来はどこからともなく縄が縛ってあるクナイを取り出すとそれを地面に突き刺し、腰に巻き付けた。そうして、2人を一気に引き上げた。
「ヒナ、ありがとう。サリア、大丈夫? 止血をしないと」
「これくらい平気ですよ」
「ダメだ」
鳳来は素早くサリアの額に包帯を巻いた。
「雛月、ありがとうございます」
「いや、それより……」
鳳来は額に白い包帯を巻いたサリアをじっと見つめた。
「どうしたんですか?」
サリアは少し顔を傾けて聞いた。
「美少女に包帯、なんと素晴らしい組み合わせだろう」
鳳来は額に包帯を巻くサリアを見て舌なめずりをした。
「ついでに眼帯はどうだ?」
「いらないですよ!」
「さぁ、綾波コスでもしよう」
「あ、あやなみ? きゃぁぁ」
眼帯を無理やりつけようとする鳳来とサリアの間に、詠那が割り込んだ。
「こらこら、包帯プレイは後にして、それよりも」
「真咲さん!」
3人は、黒い煙が吹き出す洞窟の方を見た。
「これでは、中の様子が分からないな」
「詠那、風の魔石はありますか?」
「風でこの煙を吹き飛ばすのね、分かった」
詠那は四次元ポケットから風の魔石を取り出し、魔具にセットした。
「エアロ!」
詠那の細い指先から突風が吹き荒れ、洞窟の中の煙を一気に吹き飛ばした。
「よし、行こう!」
「油断するでないぞ」
「はい」
3人が洞窟に入ると、立ちすくむ除念士の後ろ姿が見えた。右手には怪しげな装飾の付いた細い杖を持ち、左腕は赤い血でまみれている。
「除念士さん!」
除念士は驚いたような表情で、振り返った。
「来るな! 外へ出ていろ!」
そう叫ぶ除念士の向こうは、地面が真っ暗な池のようになっており、その黒い池の上に真っ黒な球体が浮かんでいた。その球体の表面に、今にも球体に取り込まれそうな神宮の姿があった。
「神宮!」
神宮はすでに意識を失っており、抗うこともなくずぶずぶと球体の中に沈んでいくところだった。
「なんだ、これは……」
「真咲さんが……」
鳳来とサリアがその異様な光景に身動き取れなくなっている中で、詠那はすぐに飛び出した。
「ダメだ、奴に近づくな!」
神宮を助けようとする詠那を、除念士が遮った。
「でも、神宮が!」
「お前まで取り込まれてしまうぞ、貴重なJKのボディが……」
「このまま神宮が飲み込まれちゃうのを黙って見てろっていうの?」
「いや、ここはわしが――」
その時だった。
神宮を飲み込もうとしている黒い球体から、ムンクの叫びのような表情をした黒い顔が飛び出してきた。その顔は、生首のように顔だけで動き、除念士と詠那の方に向かってきた。
「きゃあ」
「退け、フレア!」
除念士は、明らかにめっちゃ強そうな呪文を唱えた。
除念士の手から赤い閃光が走り、黒い顔が大きな炎に包まれ、そして爆発した。
洞窟内で、激しい爆炎が巻き起こる。
除念士が詠那を庇い、鳳来とサリアは互いに抱き合って身体を支えた。
「サリア、大丈夫か?」
「はい……あの除念士さん、魔石を使わずにフレアを使えるなんて、相当な魔術の使い手ですね……」
爆炎が引くと、詠那を庇うような姿勢を取っているように見えるが必要以上に詠那に身体をくっつけているいやらしい手つきの除念士の姿と、その向こうに、どす黒いオーラを湛えて宙に浮かぶ黒い顔があった。
「フレアでも無傷か……」
鳳来とサリアはそれぞれ武器を構えた。
しかし、除念士はそれを見て制した。
「ダメだ、お前らの手に負えるものではない」
そして、神宮は黒い球体に飲み込まれ、その姿を消した。
「神宮……」
詠那は、手の平で口元を覆った。
黒い顔は、その奇妙な表情を一定に保ったまま、神宮が飲み込まれた黒い球体に煙のように姿を消した。
神宮……
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