10代女子の聖水





 神宮は、洞窟の中の魔法陣の中心に胡坐をかいていた。


 身体のまわりを蝋燭の火で囲まれている為、熱い。


 しかし、熱いのはそれだけのせいではなかった。


 なにか、魔法陣に入ってから、身体が変なオーラに包まれている感じがする。



 除念士は、洞窟の奥に設置された祭壇の前に座ってなにやら呪文のようなものを唱えている。



「まずは、神によりかけられた呪縛を解く。これはすぐに解除出来る。神は、本気で怒っているわけではないからな」



 除念士は立ち上がり、その手の平を神宮の頭にかざす。


 すると、身体の力がすっと抜けるような感覚があり、顔に描かれたラクガキの色が消えた。


 ラクガキは、黒い墨の色に戻った。



「さて、次が本番だ。これは、とても強力な呪いだ。呪いを解く過程で、何が起きるかわからない。命を落とすかもしれない。覚悟しておくのだ」


「えぇ!? 命を落とす!? そんなのヤダよ! 除念士さんプロなんでしょ? ちゃんとやってよぉ」


「ちゃんとやる! 熟練の私でさえ、難しい案件ということだ。それに――」



 除念士は振り返り、再び祭壇の方に向かって座った。



「10代女子のパンティをもらったのだ。その分はしっかりと仕事をする」


「除念士さん……」



 神宮は、何か申し訳ない気分になった。


 無事呪いを解いてもらったら、安曇野の使用済み靴下でもプレゼントしてあげよう。





「さて、始めるぞ」



 そう言うと、除念士の身体が金色のオーラに包まれた。そして、また謎の呪文を唱え始めた。



「な、なんだこれ……」



 神宮の顔に描かれたラクガキが、うずうずと動いている感覚がする。


 まるで、シシ神に反応したタタリ神の呪いがうずき出したみたいに。



 次第に、魔法陣が光り出し、神宮の身体もさらに熱くなる。


 とくに、顔が焼けるように熱い。


 除念士のオーラも大きくなり、祭壇に置かれた獣の頭蓋骨がカタカタと揺れ始めた。


 そして、ゆっくりと除念士は立ち上がり、神宮の前に立った。



「聖水をかける。これで、呪いが解ける」



 神宮は、除念士が手に持っている聖水が入っている瓶をまじまじと見つめた。



「その聖水とは……、聖なる水ですよね?」


「あぁ、そうだが?」


「その……、人体より抽出された、つまり、おしっこじゃないですよね?」



 変態が聖水というとそのように思われて、神宮は不安になった。



「大丈夫だ。10代女子の貴重な聖水は、自分で使う」


「あ、はい。安心しました」



 やはり根っからの変態だこいつ。


 神宮は、それ以上突っ込まないようにした。



 除念士は、瓶の栓を抜き、直接聖水を神宮の頭にかけた。



「さぁ、その深い怨念の姿をここの現すのだ!」


 

 聖水がかけられると同時に、神宮の顔は溶け出して原型を無くし、そして、練り飴を伸ばすように天に引っ張られた。






 え、なにこれ――











 鳥が歌う様にさえずる、気持ちの良い青空。


 洞窟の外で、詠那とサリアは恋バナをし、鳳来は木の枝で懸垂をしていた。



 詠那は、サリアの太ももに頭を乗せて寝転んでいた。



「うーん、サリアの膝枕きもちいい。寝ちゃいそう」


「真咲さん、時間かかりそうだから寝てていいですよ」


「あるがとー」



 詠那は寝転んだまま顔を上にしてサリアを見上げた。



「ねぇ、サリアは彼氏いるの?」



 詠那は、サリアのワンピースの下から手を突っ込み、サリアの柔らかい太ももをさすりながら言った。



「いないですよぉ」



 サリアは少し照れたように言った。



「じゃあ、好きな人は?」


「い、いません」



 今度は顔を赤くして言った。



「あぁ~、その顔はいるなぁ~?」



 詠那はイジワルそうに言う。



「いませんってぇ」




 そのすぐ横で、鳳来は無心で懸垂をしていた。



 鍛冶屋が魂を込めて鉄を打つように、1回1回集中して懸垂する。





 その時、ふと気が付いた。



 空が、暗くなっている?




 それは、瞬間的だった。



 洞窟の真上を中心にして、紫色がかった暗い空が円状に広がっている。




「おい――」





 鳳来が2人に声をかけようとしたその時だった。








 洞窟の中から黒い爆風が激しく吹き出し、詠那たちは避ける暇もなくもろに爆風を受け、崖の外に吹き飛ばされてしまった。






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