強すぎる敵を前にして





 神宮は、身動きが取れなった。



 未熟で最弱な神宮でも、理解出来た。






 この金髪イケメンには、全く隙がない。






 ヤンキーに囲まれた時とは全く別の恐怖がそこにはあった。








「神宮」



 ガ―ディスは神宮の肩を叩いた。



「こいつとは、俺がやる」


「う、うん」



 神宮は、大人しく引いてしまった。



「神宮、俺がこいつを抑えている間に、皆を連れて逃げろ」


「え、でも」


「こいつは、強い。そうするしか手はない。鳳来達を、救ってくれ」


「わかった……」



 ミトロンが、嬉しそうに微笑んでいる。





「お前が黒い月の頭か」



 ガ―ディスが一歩前に出て言った。



「そうですよ。僕が黒い月の団長、ミトロンです」


「俺はサルバの傭兵ガ―ディス。鳳来達を返してもらおう」



 ガ―ディスは長剣を構えた。


 ミトロンも、椅子の後ろの立てかけてあった長剣を手に取り、鞘から抜いた。




「いいですよ、出来るのもならね」




 ミトロンが長剣を構えた瞬間、ガ―ディスは突進して斬りかかった。



 一体、どうやったらあの巨体であんなスピードが出せるのだろうか。


 神宮達が目で追うのもやっとの速さで斬りかかるが、ミトロンは簡単に受け流してしまう。



「手負いの者を相手にするのは好きじゃないが」



 ミトロンは、ガ―ディスの長剣を弾き飛ばした。



「あなたのその心意気に応えたいと思います」



 ミトロンの鋭い刃が、ガ―ディスの胸を切り裂いた。




「ガ―ディス!」




 ガ―ディスの胸から、真っ赤な血が水鉄砲のように噴き出した。



「まだだ!」



 ガ―ディスはそれでも倒れなかった。


 真っ赤に染まった身体で、拳を繰り出すが、かわされてしまう。




「美しいものだ、戦士の決意。せめて美しく、散らせてあげますよ」


「ガ―ディス、逃げて!」



 詠那が炎の魔法を放つが、ミトロンにはまるで効かない。



「ふっ、君も可愛いね。僕のコレクション入り決定だよ」



 そう言うと、ミトロンは指をくるくると振った。



 すると、詠那の身体は金縛りにかかったように動かなくなった。



「ちょっと、なによこれ!?」


「神宮! 何してる、早く逃げろ!」



 そう叫びながら、ガ―ディスは瀕死の状態で拳を放つ。









 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 ガ―ディスさんが殺されちゃう。


 でも、僕には無理だ、怖い。


 でもガ―ディスさんが殺されちゃう。


 いいのかそれで。


 よくないだろ。


 でも怖い。


 死ぬのは嫌だ。







 ミトロンは、長剣を振り上げた。




 更に、突進しようとする血だらけのガ―ディス。




 ミトロンの幻術で拘束されている詠那、鳳来、サリア。










 そして、神宮は半泣き状態で、ミトロンに突進していた。








 神宮はミトロンにタックルし、その細い胴体にぐっと抱き着いた。




「おやおや、待ちきれなかったのかい、魔法剣使いの君」


 神宮は、ミトロンの腰に抱き着いたまま、叫んだ。


「エスケープ!!!」


「なっ、神宮!」



 ガ―ディスが手を伸ばしたが、届かなかった。


 エスケープの呪文を唱えた神宮は、ミトロンと共に姿を消した。



「あの馬鹿!」




 ガ―ディスは神宮の後を追おうとしたが、その場で倒れ込んだ。













 神宮は、アジトの外にいた。



 目の前には、長剣を持つミトロンがいる。



「2人きりになれて嬉しいよ、神宮……名前はなんて言うんだい?」


「真咲だ」


「真咲……良い名だ。僕はミトロン。よろしくね、真咲くん」


「よ、よろしく……」



 しっかりとはじめましての挨拶を交わしたが、とても仲良くなれる状況ではない。







 たぶん、今までの登場人物の中で1番強い、四天王クラスの強敵だ。





 なんでこんな奴が、序盤に出てくる盗賊の頭なんだよ。




 ゲームバランス破たんしてるよ。





 やっぱり、現実とゲームは違うってことか……。







「君のその勇気、ますます好きになったよ」



 そう言って、ミトロンは長剣を構えた。




「それじゃ、楽しもうか。真咲ベイビー」





 薔薇のように美しく微笑むミトロン。




 もうこれ以上伸びないくらいに引きつった表情の神宮。









 規格外の強さを持つ敵とのタイマン、始まる!


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