恐怖のディナーと睡眠薬
神宮は、几帳を捲って外に出た。
今まで洞窟の中にいたために、日の光に目がくらむ。
「どうだった?」
崖に足を放り出してぶらぶらさせている詠那が聞いてきた。
「うん……準備に時間がかかるから、明日の正午にまた来いって」
「呪い、解いてくれるんですね! よかった」
サリアは心から安心したように言った。
あぁ、サリア、君のパンツをあの変態にやらなければならないなんて……
しかし、これも呪いを解く為には致し方ない事。
心を鬼にして、パンツを頂こう。
「それじゃあ、今夜はショルクの村に泊まって行こう」
そして、晩御飯の時に変態から預かった睡眠薬で安曇野たちを深い眠りに誘う。
「そうね、下山するのも大変だし、そうしよっか」
4人は、崖から降り、森をかき分け、ショルクの村へ戻った。
「友達、今夜泊まってくネ! 大歓迎ヨ」
神宮達がショルクの村に留まる旨を伝えると、村長は無料で宿を用意してくれ、更にディナーもご馳走してくれるという。
神宮たちは、村長の家に隣接してある、隣りの木の上にあるゲストハウス的な建物に案内された。
建物の内部で、神宮達はディナーを待つ。
「ちょっと、まさかディナーって、虫じゃないわよね」
詠那が肘で神宮をコンコンと突く。
神宮の口の中に、喉の奥からあの青臭いにおいが甦ってくる。
「うぷっ……僕はもう無理だからね」
「あたしだって無理よ」
「だが、食べられないことはない。私はサバイバル術を学ぶ時に食用の昆虫についても学んだ」
そう言って、鳳来は瞑想しながら料理を待っている。
鳳来、君は一体どんな部隊に所属していたんだい?
「虫……きらい……」
サリアは、青い顔をしてひたすら1点を見つめている。
その時、村長が勢いよく部屋に入ってきた。
「オマタセ! たんとお食べ!」
村長と村人の主婦らしきおばさんが運んできてくれた料理は、大きな葉の上に盛られた鳥や獣の焼いた肉、鮮やかな果物など、良い香りのするとても美味しそうなものだった。
「わぁ、すごい!」
死んだ魚のような目をしていた詠那とサリアの瞳は、突然輝きを取り戻した。
カラフルな果物は見た目にも効果的で、女子たちが喜びそうな盛り付けになっている。
「ぼ、僕が飲んだあのゲテモノスープは一体何だったんだ……」
……はっ、いけない。
睡眠薬を入れなきゃ。
神宮は、辺りを見回した。
安曇野達は料理に夢中になっているとはいえ、ここで睡眠薬を入れればさすがにバレる。
どうしよう……
その時、村のおばちゃんが木のカップに注がれたスープのようなものをおぼんに乗せて運んで来た。
これしかない……!
「あ、僕やります」
そう言って神宮は立ち上がり、おぼんを受け取った。
「ナイス神宮、気が利くじゃない」
「ははは、まぁね」
女子たちはこちらを見ていない。
神宮はこっそり詠那たちに背を向けると、ポケットから睡眠薬を取り出し、カップの中に数滴入れた。
「神宮、なにしてんの?」
突然、背後から詠那の声。
「はうっあ! な、なにも……」
詠那は骨付き肉を頬張りながらこちらを見ている。
「真咲さんも頂きましょうよ」
サリアが呼びかける。
よかった、バレてない。
「あ、うん。さぁ、みんな、スープがきたよ」
「まさか、ゲテモノじゃないでしょうね」
先のゲテモノスープの件があったので、汁ものに対しては皆過敏な反応を見せる。
「だ、大丈夫だって」
川の底にいる小魚を探すように、詠那はじーっとスープの中を覗き込む。
「万が一Gを食べたりしたら、一生それを背負って生きていかなきゃならなくなる。神宮、毒見!」
「え、えぇ!?」
詠那は、おぼんの上のカップを無造作に取ると、神宮の口に運んだ。
「はい、あーん」
「ちょ、ちょっと……うぶぶ、ゴクっ」
暖かいまろやかなスープが、神宮の舌の上を流れる。
「お、美味しい……」
「え、ホントに?」
「虫は、入ってないんですか?」
「うん、大丈夫。みんなも飲んでみてよ」
恐る恐る、3人はスープを口に運ぶ。
「美味しい!」
「うむ、これは美味だな」
「何のスープなんでしょう、とても美味しいですね」
神宮は、美味しそうにスープをすする3人を、ひっそりと観察した。
果たして、効果はあるのだろうか……
その前に、僕が飲んだスープって……
睡眠薬入りのじゃないよな……
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