固い絆とロリっ子美少女

 


 安曇野詠那。16歳。身長は、神宮より少し低い。体重は、知らない。知ってたらストーカーの領域だろう。でも、バスケ部に所属し、日々部活に精を出しているので引き締まった良いスタイルをしている。胸も、けっこうある……。髪型は、黒髪で少し長めのショート。明るくて活発なスポーツ美少女。


 当然、彼氏もいるんだろうな。




 そんな美少女と、全く冴えない男子高校生神宮真咲は、見知らぬ異世界の森の中で、2人っきりだった。妄想好きな神宮にとっては、夢にまでみたシチュエーションである。願えば、夢って叶うんだな。


「なにチラチラ見てんのよ」


「あ、いや」


 しまった、無意識に詠那のことをジロジロと見てしまっていたようだ。ごまかすように話題を変える。


「さっき異世界って言ってたけど……」


「うん、たぶんね」


「僕は、イマイチどういう状況だかよくわからないんだけど」


「もう……あの時あんたが現れなければ、こんな事にはならなかったのよ」


 詠那は、拳を握り軽く神宮を殴る仕草をして見せた。


「あの時、何をしていたの? あんな深夜の屋上でさ」





 諦めたように、詠那はため息をついた。



「神獣召喚……」


「し、神獣召喚?」




 ――バカな、リア充の安曇野詠那から、まさかの中二病用語が飛び出すとは。




「あぁ、今バカにしたでしょ?」


 詠那は顔を赤らめている。


「そんな、バカになんてしてないし」


「神宮のくせに!」


 バシン! 


 またビンタが飛んできた。今日は良く殴られる日だ。






「まさか、本当に神獣を召喚しようとしていたの?」


「そうよ、悪い?」


「悪いかは別として、なんでまた……」


「学校を、ぶっ壊そうと思ってたの」


「が、学校を?」




 学校をぶっ壊す妄想なら、神宮も毎日していた。隕石が直撃したり、魔王が降臨したり、幾度となく破壊した。しかし、実際に壊そうとする者がいたとは。


 やはりリア充、行動力が違うな。




「まぁ、あんたを巻き込んじゃった責任があるから言うけど、あたしたち4人は、固い絆で結ばれていたの。自分で言うのもなんかヘンだけどね」


「でも、安曇野が他の3人と話してるところ見た事ないけど」


「わざとそうしてたのよ、学校ではね。他の子達に、干渉されたくなかったの。安心していられる空間に、他人に、土足で上がって来て欲しくはなかったのよ」




 意外だった。誰とも仲良くし、オープンに話す詠那がそんな事考えていたなんて。まぁ、鳳来と時子は他人を寄せ付けない節があったが。




「それで、あたしたち4人とも、それぞれ思うところがあって、学校を壊したいと思ってて。そんな時、時子の家の古い蔵の中で、昔の古文書を見つけたのよ」



 道明寺時子の家は、神宮達の地元の名士だ。家も、とてつもなくデカい。蔵の1つや2つあったって不思議ではない。



「古文書には、この異世界の事が記されていた。最初は、ただの古臭い小説かと思ったわよ。でも、本物だと認めざるを得ない事が起きちゃったのよね」


「どんなこと?」


「魔法が、使えちゃったのよ」


「ま、魔法?」


「あ、またバカにしたでしょ?」


「してないって」


「あんた、実際魔法見れたら腕立て伏せ100回だからね」


「わ、わかったから。それで?」


「古文書に付録みたいなのがついてて、その中に小さな赤い石が入ってたの。石ころくらいの小さいのが。で、古文書によるとそれは魔石っていうらしいんだけど、その魔石を、これまた付録についていた古いペンダントなんだけど、それにセットして呪文を唱えると魔法が使えるっていうのよ」


「で、出たの?」


「うん、出ちゃった」








 詠那は、時子の家の薄暗い蔵の中で、魔石をはめ込んだ古いペンダントを首にかけ、バスケットのパスを出す時の動作と共に、大声で唱えた。



「ファイアー!!!」



 呪文? と共に、詠那の手の平から、火炎放射器で吹いた様な炎が放出された。炎はすぐに消え、それとともに魔石も砕け散った。



 一瞬の出来事だったが、4人は茫然として暫く動けなかった。








「そんな事があったから、これは本物だと思って、古文書を読み漁ったの。で、神獣の召喚方法も書いてあったから、色々研究して、あの日、実行に移したってわけ」


「すごい!僕魔法使ってみたい!」


「そ、そう?」


「で、何を召喚しようとしたの?」


「バハムートよ」


「バ、バハムート……」



 それなら学校をひと吹きで吹き飛ばせそうだ。しかし、彼女たちが学校にどんな恨みを持っていたのか気になる。校舎の窓を割るのとは訳が違う。でも、それは聞かない事にした。



「まぁ、古文書によると、神獣を召喚するには、現実世界と異世界を繋ぐトンネルみたいのを一時的に作って、それで神獣を呼び出すみたいなの。で、神獣を呼び出すはずが、失敗してあたしたちが逆に異世界に召喚されちゃったと、そういうことじゃないかな」


「なるほど。それなら、古文書には現実世界に戻る方法も書いてなかったの?」


「そこなんだよねぇ。あたしはほとんど神獣召喚のとこだけしか読んでなかったから。まさか異世界に来ることになるとは思ってもみなかったし。でも、時子なら読んでたかもしれない。あの子、勉強好きだし、本の虫だからさ」


「じゃあ、道明寺を探し出せば、現実世界に帰れるかも」


「あるいはね」




 まるでRPGじゃないか! 退屈な現実世界に飽き飽きしていた神宮の胸の鼓動は大いに高まっていた。





「安曇野、体調はどう?」


「うん? まぁ、大丈夫よ」


「それなら、ここにいても始まらないし、行こうか」


「あ、うん。いいけど」



 神宮は立ち上がり、詠那に手を差し伸べた。


「あ、ありがとう」




 詠那は神宮の手を取り、立ち上がった。神宮の活躍劇が、ここから始まる――








 ――はずだったが……





「ぎゃああああああ」


「なにしてんの神宮! 早く走って!」



 神宮と詠那は、オオカミに似たモンスターに追われていた。最初のバトルで選んだコマンドは『にげる』であった。



「そんなこと言ったってぇぇぇ」


 運動オンチな神宮は、詠那よりも幾らか遅れを取っていた。次第にモンスターの牙が、神宮の尻に迫る。


「あいてっ」


 神宮は、木の根に躓き、激しく転倒した。それを見たモンスターは、倒れる神宮めがけて飛び上がった。


「神宮!」


 詠那は、とっさに拳くらいの大きさの石を拾い、それをモンスターめがけて投げつけた。石はモンスターに命中し、間一髪のところで神宮は命拾いした。




「ありがとう」


「ほら、いくよ」



 詠那の石礫でモンスターを追い払ったかに見えたが、再び目の前にオオカミのようなモンスターが現れた。逃げようとして後ろを振り向くと、後ろにもモンスターが。サンドイッチ状態である。


 神宮達は、早くもピンチに陥った。



「くそ、挟まれたわね」



 詠那は、地面に落ちていた木の棒を手に取って構えた。


 神宮はというと、すでに死を覚悟していた。こんなことなら、あの時詠那にキスしておくんだった。あたまの中はその後悔でいっぱいである。耐えきれず、神宮は後ろから詠那に抱き着いた。



「安曇野ぉぉぉ」


「きゃあ、あんたこんな時になにしてんのよ!」



 ゴツッ! 


 

 クリティカルヒット。詠那の一撃で神宮を倒した。





「ったく、このヘンタイが」


 じりじりと間合いを詰めてくるモンスター。いつ飛びかかってきてもおかしくない。詠那は両方に気を配り、構えた。と、モンスターが飛びかかってきた、両方一気に。その時、上の方から声がした。



「わたしは左、あなたは右」



 普段から反射神経を鍛えている詠那は、この声を即座に理解し、反応する事が出来た。詠那は、思いっきり振りかぶり、右から来たモンスターを殴りつけた。モンスターは、光の粒となってはじけて消えた。


 同じく、左にいたモンスターも消えていた。代わりに、小さな少女が立っていた。





 少女は、綺麗な青色の髪をツインテールにし、服装は、白いワンピースの様な服の上に茶色いマントを羽織っている。背は詠那よりも低く、現実世界で言うと小学校高学年くらいの女の子に見えた。手には、不釣り合いな大きな鎌を持っている。


「あなたが助けてくれたの?」


「いえ、お怪我はありませんか? あ、男性の方はダメージを負ってるようですね」


 そう言って少女は神宮の方に駆け寄った。詠那は、自分でやったことは黙っておいた。








「ううん……ここは?」


 神宮は、またもや意識を失っていた。


「大丈夫ですか?」


 仰向けで寝る神宮を覗き込むようにして、ツインテールの可愛らしい少女の顔が現れた。


「え、君は?」


「彼女が助けてくれたのよ」


 木にもたれて座っている詠那が言った。


「そうだったんだ、ありがとう、いてて……」


「まだ傷が痛みますか?」


「うん、強烈な一撃を食らったみたいだ」


 神宮も、詠那にやられたとは気づいてないようだった。詠那は知らんふりをした。


「君があのモンスター達を倒したの?」


「いえ、わたしはお手伝いをしただけで、詠那さんと協力して倒せました」


「安曇野がモンスターを倒したの!?」


「ふん、あんたが弱すぎるのよ」


「うう、情けない」



 神宮は少しへこんだ。ヒロインを守るはずのヒーローが、逆にヒロインに守られてしまった。




「でも、その装備では仕方ないですよ。武器もなにも持たずにこの森へ入ったんですか?」


「うん……世間知らずなもので、ははは」




 自分が現実世界から来た人間であることは、とりあえず黙っておくことにした。でも、今のままの装備(学校の制服)だとまずいな、彼女の服装を見る限り、この世界では中世ヨーロッパ風世界観の様だ。異世界をこの制服姿で出歩くのはいささか目立ちすぎるような気がする。



「ここら辺で、どこか装備を整えられる場所ってあるかな?」


 少女は人差指を頬に当てて、少し考えて言った。


「必要最低限の装備なら、この森を抜けた先にあるダリの村で購入出来ると思います」


「それなら、そこを目指そうか?」


 神宮が目で詠那に確認すると、うん、と詠那は頷いた。


「では、ダリまではわたしがご案内します」


「え、いいの?」


「はい、わたしも旅の途中ですし、ダリで色々調達したかったので」


「ありがとう、助かるよ」


「神宮、サリアちゃんに手出したら完全にアウトだからね」


「そ、そんな事しないって」



 詠那の、犯罪者を見るような視線が痛い。神宮はロリもイケる口である。生粋の変態なのだ。




「サリアちゃんっていうんだ。僕は神宮真咲。よろしくね」



「はい、サリアといいます。よろしくお願いします、真咲さん」

 


 サリアはぺこりと丁寧に頭を下げた。






 最初に出会った異世界人は、ロリっ子美少女だった。

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