魔石と魔具と初勝利




「森を抜けるまでにモンスターが現れるといけないから」




 そう言って、サリアは小刀と白い石が付いたペンダントを渡してくれた。





「すみません、こんなものしかなくて」


「十分だよ、ありがとう。それよりこれって……」



 詠那はペンダントを手に取った。似ている、時子の家の蔵で見たものに。



「はい、それは魔具です。魔石は、白魔法石です。この魔石では初級の白魔法しか使えませんが。使い方はご存知ですか?」


「うん、一応知ってはいるんだけど、使うのは初めてだから詳しく教えてくれない?」


「えぇ、喜んで」



 サリアは屈託のない笑顔で言った。

 神宮のようなチェリーボーイをコロッと落としてしまう、破壊力のある美少女スマイルだった。




「まずは、魔法を使うのに必要になるのが魔石です。魔石には様々な種類があって、効果も威力も様々です。大まかな種類は色やその外観で判別できるのですが、細かいところはわかりません。でも、上級魔術師になると、見るだけでどんな効果が秘められているか分かるみたいですよ」


「ふむふむ」


「次に必要となるのが、この魔具です。魔石だけ持っていても、魔法は使えません。魔石を魔具にセットして、その魔具を装備することで、初めて魔法が使えるようになるのです。魔具は、身体と魔石を繋ぐ役割を果たします。魔具も、ペンダントや指輪など、形はそれぞれです。魔具にも性能が良いものと悪いものが存在します。性能が良いものの方が、よりダイレクトに魔力を身体に使える事ができます」


「LANケーブルみたいなものか」

「ギターのシールドみたいな感じね」


「ラン? シールド?」


「いや、こっちの話しよ。こら神宮、余計な事言うんじゃないの」


「えー安曇野だってギターがナントカ……ごふっ」



 詠那のボディブローが綺麗に神宮の脇腹に入った。そのまま横に倒れる神宮。



「ごめんね、話しを続けて」


「は、はい。魔石にも込められている魔力に限度がありまして、使い切るとただの石になって魔法も使えなくなってしまいます」



 詠那は、ファイアーの魔法を使った後に砕けてしまった魔石のことを思い出した。



「でも、同じ魔法をある程度繰り返し使うと、魔石がなくてもその魔法を使い続けられるようになります。これを魔術の習得といいます。これには非常に個人差がありまして、極端な例ですが1回使って習得できる人もいれば100回使って初めて習得できる人もいます。この、魔術の習得が得意な人が所謂魔術師と呼ばれる人達です」


「魔石を使わずに魔法を使う場合、身体の中のエネルギーを消費するの?」


「はい、誰にでも魔法エネルギーは存在するみたいです。やはりこれにも個人差があるみたいですが、体内の魔法エネルギーは訓練で増やす事が出来ると言われています」


「なるほど、MPが存在するんだな」



 神宮は、ふと考えた。

 現実世界の人間でも魔法エネルギーがあるのだろうかと。詠那が現実世界でファイアーの魔法を使った事を考えると、とりあえず魔石があれば魔法は使えそうだけど、これから先、ドラゴンや魔王と対峙した場合、魔術の習得がないと厳しいだろう。パーティー全員で最上級攻撃魔法の魔石を装備してそれを連発するという力技も使えなくはなさそうだが……



「魔石はどうやって手に入れるの?」


「お店で売っていますし、一部のモンスターを倒すと手に入る場合があります。あとは、自然の中ですね、木の実のようについていたり、川の底にあったり。特に白魔法は癒す魔法なので、自然界に多く存在します」


「それなら、お金も必要になってくるわね。装備も整えないといけないし。サリアちゃんは旅の資金はどうしてるの?」


「わたしは大体、旅の途中でモンスター狩りをして稼いでいます。モンスターが落とす皮や牙を売ったり、あとは薬草を売ったりだとか。ひとりならそれでこと足りるので」



 ひとりでモンスター狩り? 



 このロリっ子、出来る……神宮は唾を飲んだ。




「では、小刀は真咲さんが、ペンダントは詠那さんが使ってください」


「えぇ、僕も魔法使いたいよ、ずっと夢だったんだから」


「なに言ってんのよ、身体を犠牲にして女の子を守るのが男の役目でしょ」


「そうですよ。真咲さん。大切な彼女を守らないと」


「安曇野が彼女? へへへ、もしかしてお似合いなのかなぁ僕達」


「ちがーう!」



 ガツっ! 詠那の拳が神宮の頬に激しく食い込んだ。

 神宮は白目をむき、再び意識を失った。





「詠那さんが小刀を装備したほうがいいかもしれないですね」

 











「安曇野のせいで僕のHPは赤色になってるよ……」




 3人は、ダリの村を目指して歩き始めた。


 神宮が先頭を行き、詠那とサリアが後衛にまわるという陣形だ。神宮は、遊園地のお化け屋敷に本気でビビる女子のように腰が引けていた。


「ほら、神宮、しゃんとしなさい。いつモリウルフが現れるか分からないわよ」



 モリウルフとは、先ほど詠那が倒したオオカミに似たモンスターの呼び名だ。神宮は、サリアから借りた小刀を震える手で握っていた。



「こ、これはいつでも対処できるように構えてるんだよ」


「そんな足をガクガクさせて、どんな構えよ」


「来ましたよ、前方より2匹! モリウルフです」


「ひぃぃ」



 神宮は早速、腕をクロスさせてガードの構えをとった。モリウルフは、容赦なく神宮目がけて突っ込んでくる。



「なにやってんのよ神宮、戦うの。サリアちゃんから教えてもらったでしょ、鼻を狙うの」


「うわわわ」



 神宮は、目をつむったまま小刀を振り下ろした。それが運よくモリウルフの鼻に当たり、モリウルフは叫び声を上げながら光となって消えた。後には、モリウルフの牙だけが残った。



「ふぇ?」


「やるじゃん、神宮」



 そう言って詠那がガッツポーズした。



「まだです、もう1匹来ます」



 油断したところで、もう1匹のモリウルフが飛びかかってきた。この距離では、避けられない。神宮は防御の構えさえ取れなかった。


 ダメだ、もろにくらう――



「シールド!」



 詠那がそう唱えると、神宮の前に魔法のバリアが出現し、モリウルフはバリアに思いっきり衝突し、吹っ飛んだ。


「神宮、今よ」


「う、うん」



 詠那の掛け声で、神宮はよろめいているモリウルフに斬りかかり、見事モリウルフを倒す事が出来た。



「僕が、倒した? やった!」



 神宮はかなり大げさにガッツポーズしている。それを見て、詠那はほっと、微笑んだ。サリアは、構えていた大鎌の力を抜いた。



「詠那さん、あんなこと言ってるけど、やっぱり真咲さんに優しいんですね」


「そ、そんなことないわよ!稼ぎ手がいなくなったら困るでしょ」



 そう言って詠那は顔を赤らめた。神宮は、そんなことはつゆ知らず、1人で初めての勝利に酔っていた。







 その後も、モリウルフと幾度も遭遇したが、なんとか撃退して、売って儲ける為のアイテムをゲットした。


 モリウルフが現れる度に、神宮は詠那によって前線に蹴り出され、ボロボロになって戦った。瀕死の状態になると、詠那が魔法で回復してくれた。詠那は恐ろしいほどにスパルタだった。将来、詠那の旦那となるものは、更に恐ろしいものを見る事になるだろう。

 そのスパルタのおかげで、神宮は2、3レベル上がった気がした。小刀の扱いにも、大分慣れてきた。




「なかなか、様になってきたじゃない。えらいえらい。サリアちゃん、ホントのピンチになるまで手を貸しちゃダメよ」


「はい、でも真咲さんが少し可哀想で……」


「サリアちゃんが天使だとしたら、安曇野は悪魔だな……」


「なんか言った?」


「いえ、何も!」




 しかし、ドM体質な神宮にはこれが有効だった。結果、効率の良いレベル上げと資金稼ぎになった。森を出る頃には、モンスターを倒して得た資材を沢山抱えていた。






「重い……」


「ほら見て、神宮! 森を抜けたわよ」



 360度見渡す限り木、木、木……だけだった景色から、一気に視界が開けた。目の前に広がる大草原。それを見た詠那は幾分かはしゃいでいる様子だ。ボロ雑巾の様に扱われ、背中に大量の資材を背負わされている神宮はそれどころではなかった。とりあえず早く休みたい。



「もう少し進むと、川のほとりにダリの村がありますよ」



 草原の向こうを指さしてサリアが言った。よく見ると、煙突から立ち上る煙が見えた。



「ホントだ! お腹すいたなぁ。村には何か食べさせてくれるところはあるの?」



 詠那はお腹を抑えながら言った。



「はぁはぁ、マックはないのかな」


「ある訳ないでしょ」


「マック? 真咲さん達が居たところにあるお店ですか」


「あ、そうそう。そんな感じ。フライドポテトが美味いんだ、僕の大好物」


「それなら、あると思いますよ」




「あるの!?」


 2人で声を揃えて言った。




「はい、芋を切って揚げたものですよね。わたしたちはチップスと呼んでるんですが」


「よかったわね、神宮。とりあえず食べるものは一緒のようね」


「うん、あとは味覚が同じなら」


「もう、味覚とか贅沢言わないの」


「お口に合うといいんですが。そういえば、この地方はお肉料理が美味しいですよ。獣が沢山獲れますから」


「やった! あたし焼肉食べたい! 神宮、早いトコその牙とか売ってご飯にしましょう」


「装備は? 僕かっこいい剣とか欲しいんだけど……」


「あんたはその小刀で十分よ。さぁ、行きましょう」



「そんなぁ」  




 詠那は、サリアの手を握って走り出した。


 女子達は、キャハハ、ウフフと先に行ってしまい、神宮は、ポツンとひとり取り残された。大量の資材と共に。






「待ってよぉ。疲れた……お腹減った……」





 神宮真咲、少しだけ成長して、ダリの村へ到着。


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