詠那をペロペロ





 ダリの村に着くと、辺りはすっかり暗くなっていた。



「なんだか、懐かしい感じがするね」



 サルバとは違い、ダリの村はゆったりとした時間が流れていた。

 家々の窓からもれる暖かい灯りが、少しだけほっとしか気持ちにさせてくれた。



「お前達、休まなくても大丈夫か?」


「もちろんよ! ダリの村で何をするの?」


「身代金のダミーを用意する」


「なるほど、でもそんなので盗賊を騙せるの?」


「分からん。身代金のダミーと神宮は、あくまでも敵を油断させる為のものだ」


「それで、どういった作戦なの?」


「まず、ここで身代金のダミーを用意する。そして、明日の朝、盗賊と取引の場所に、神宮がダミーを持って行ってもらう」


「え、僕が?」



 神宮は途端青くなり、萎縮してしまった。

 僕が取引なんて……、


 こ、怖い……。



「あたしとガ―ディスはどうするの?」


「俺は、身代金の箱に隠れて盗賊のアジトに進入する」


「その巨体で隠れれるの!?」


「俺は見かけによらず柔らかいんだ」


 突然柔軟をして見せるガ―ディス。


「あたしは?」


「詠那は、ここで待機してもらう」



 僕もここで待機していたいよ……と心で泣く神宮。



「そんなの嫌だよ、あたしもヒナとサリアを助けに行く!」


「もし作戦が上手く行かず、お前が拘束されたらどうするんだ。捕まって、盗賊どもにあんなトコやこんなトコをペロペロと……」


「ペ、ペロペロ……」


 ガ―ディスは、ひとりでペロペロする動作を再現して見せる。

 それを見て、詠那は青くなった。


 な、何してんだこのおっさんは……




 そして、神宮は頭の中で想像した。


 それは、それだけは、絶対にさせない!!!



「安曇野、君はここで待ってて!」


「でも、ヒナ達が危険に晒されていると思うとあたし、居ても立っても居られないの」



 神宮は、詠那の両肩を掴んだ。



「安曇野、僕を信じて」


「神宮……」



 安曇野をペロペロするのは、この僕だ!




 そして、鳳来とサリアを無事に助け出せば、2人とも僕のものになるかもしれない……!



 ぐへぇへへへ……ぬふふふふふ……






 神宮の心は激しく燃えていた。












 盗賊との取引は、明日の朝になっていた。


 ガ―ディスは、予めダミーの準備をダリ村に手配していた。


 大小の身代金の箱、荷車、ガ―ディスの私財である本物のヤッホ紙幣と、ただの紙の束。



「すごい、これだけの札束。これ全部、ガ―ディスのお金なのよね?」


「仕方あるまい」



 ガ―ディスは黙々と紙幣を詰めていく。


 そこには、ガ―ディスの決意が込められていた。






 準備を終えると、神宮と詠那は疲れて眠ってしまった。






 ガ―ディスは、暗い部屋の中、窓から夜空を見上げていた。






「鳳来……待っていろよ」

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