動き出す作戦と帝国騎士団





 翌朝、作戦の打ち合わせをし、詠那と別れ、ダリ村を出た。


 作戦というほどのものでもなかったが。


 ポイントは、神宮がどれだけ上手く盗賊のアジトに潜り込めるかにかかっていた。


 運の要素が強い、間に合わせの、賭けのような作戦だった。







「神宮」



 ガ―ディスが、1番下に積まれた箱の中から荷車を引く神宮に話しかけた。



「は、はい。なんですか?」



 紙幣とガ―ディスを乗せた荷車を引くのは、けっこう重労働だった。



「無事アジトに進入出来たら、盗賊を倒しつつ、鳳来達を助け出し、エスケープの魔法を使って逃げる」


「はい、ちゃんと覚えてます」


「もしもだ、お前に命の危険が及んだ場合、もう逃げられないと悟った時、最悪の事態に至った時は、お前だけでも逃げろ」


「え?」



 神宮は足を止めた。



「もとはと言えば、俺が巻き込んでしまった事だ。俺に付き合ってみすみす死ぬことはない。それに、あの少女を、詠那を1人にするのは可哀想だ」


「ガ―ディスさん……」



 神宮は思った。



 ガ―ディスさんを盗賊のアジトに送り届けたら、ソッコーでエスケープして逃げ出したい。











 神宮は、盗賊が指定した場所に着いた。

 ダリの森の中にある、小さな遺跡のような古びた塔。


 そこに、3人組の黒い男達がいた。



「へっ、来やがった。サルバの人間だな?」


「お、おう」



 神宮はすでに脚が震えている。


 盗賊は、神宮が持ってきた箱の中身をチェックした。

 上に積んである底が浅い箱には、本物の紙幣が入っている。

 ここで、2段目の箱を見られたら、そこでお仕舞だ。



「約束通り持ってきたようだな。お前が魔法剣の小僧か?」


「あ、あぁ、そうだ!」



 盗賊はそのひげ面を、鼻がくっ付きそうなほどに近づけてきた。



「な、なんだよ……」


「そうには見えねぇな。さ、着いてこい」



 神宮は大きく息を吐いた。


 何とか、第1関門突破だ。



 もうすでに緊張で吐きそうだよ、早く帰りたい……










 サルバには、1000人の兵と第5帝国騎士団が到着していた。




 第5帝国騎士団の5人は、ダリの森が見渡せるダリ山にいた。



「こんなチンケな盗賊討伐ごときに駆り出されるとは、落ちたもんだな」



 第5帝国騎士団の1人、アルガスが言った。

 見た目20代の、まだ若い男性の騎士である。

 無駄に日焼けしていて、チャラい。



「イヅナ様の指示だ。なにかお考えがあるのだろう」



 団長であるイシューが言った。

 アルガスよりも一回り年上の、高身長の男性だ。

 眼鏡をかけた、几帳面で賢そうな男性だ。



「ナナハ、どうだ?」



 イシューが、騎士団の魔導士ナナハに訊ねる。

 フードを被っているので顔が見えないが、女性のようだ。



「とんでもない使い手が1名います。ただの盗賊とは思えません」


「アジトの場所は分かるか?」


「分かります。幻術で隠しているけれども、まるで誘っているかのようにオーラが感じ取れる」



 それを聞いてイシューは即決した。



「盗賊のアジトには、我々だけで行こう。取りこぼしがないように、兵でアジトを包囲する」


「よっしゃ、盗賊ども皆殺しにして地獄で人生の反省会させてやろうぜ」


「アルガス、言葉が悪いぞ。殲滅と言え。それと、人質が3人いるのを忘れるな」


「了解っす!」



 アルガスは、大剣で大きな弧を描き、肩に乗せた。






 アルテナの騎士団が、動き出した。

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