首元に感じるサリアの吐息と青臭いにおい





 ショルクの村への道のりは、険しいものだった。


 ダリ、サルバ、トリルと今までは街道を伝ってきたが、今回目指す山村への道は、人通りもあまりない、登山道のような道のりだった。



 高度が増す共に、緑は増え、勾配もキツく道も荒くなる。



 トリルの街では軽快なスキップを披露していた神宮だが、今ではサリアに背中を押されていた。



「ごめんよぉサリア」


「大丈夫です、真咲さんの呪いを解く為ですから」



 健気に神宮の背中を押すサリア。


 あぁ、サリア、なんて君は良い娘なんだ。


 リアル世界に連れて帰ってお嫁さんにしたいよ。



 それに引き換えあのドS女達は……



「サリア、神宮に構うことないって」



 詠那と鳳来は、神宮がいるところよりも少し上った先の少し開けた平場で座って休憩していた。



「神宮だけに行かせてあたし達はトリルで待っていれば良かったわね」


「まったくだ。まぁ、良い運動になるから良いが」



 好き勝手言いやがって……


 サリアはお嫁さんとして大切にしてあげるが、お前ら2人はセクシーなメイド服を着させて毎晩ご奉仕させてやる。



 やっとの思いで平場に辿りつくと、神宮も腰を下ろした。



「はぁ、疲れた」


「あ、真咲さん! 見てください」


 サリアがそう指さした先には、森の中にポツポツと顔を出す木造の小屋のような建物が見えた。


 まるで、グンマーにある現住民族の住居みたいである。



「もう少しです、頑張りましょう」



 そう言って、サリアは胸の前で両手をグッと握った。


 可愛いよサリア。


 君だけにはガーディヴァインを売って儲けた5万ヤッホでエッチな下着を買ってあげる。

 


 息を切らし、最後の山道を上る。









 ショルクの山村は、土地が開かれている通常の村とは違い、森の中で、人間が自然と共存していた。


 鳥が木の上に巣を作るように、ささやかな家を作って生活している。



「へぇ、こんな村もあるのね」



 詠那は物珍しそうに木の上に建てられた民家を眺めている。




 村人の服装も、ターザンのような原住民ファッションというように、ライフスタイルはかなり違うが、排他的という訳では決してなかった。



 神宮達が村へ入ると、村人は快く迎えてくれ、歓迎された。

 神宮達は、村長の家に連れて行かれた。





「ワタシ、神宮、友達。これ飲め」



 村長が友情の証として差し出したのは、お決まりのゲテモノスープだった。


 様々な昆虫がブレンドされており、昆虫のサラダボール状態になっている。


 昆虫はただでさえ苦手なのに、異世界の昆虫は更にグロテスクな形をしているものが多く、更に、神宮がこの世でもっとも忌み嫌う黒いあいつも入っていた。



「い、いやこれは……」


「飲まない、それお前達敵。敵、鍋にして食う」



 笑顔で恐ろしいことを言う村長。




 逃げよう……。




 神宮はエスケープの魔石を手に取った。


 瞬間、サリアの柔らかい手が神宮の手首を素早く掴んだ。



「真咲さん、わたし、昆虫だけはダメなんです。わたしの為に飲んでください」



 サリア、お前もか……



 そして、殺気を放ちながら後ろで睨みつける詠那と鳳来。


 サリアはエスケープの魔石を奪い取ると、神宮を羽交い絞めにした。



「はうぁっ」



 貧乳なので胸の感触はあまりないが、サリアの熱い吐息は首元に感じられた。



「真咲さん、大人しくしてください」



 しかし、今はサリアの身体の感触を味わっている場合ではない。



 身をよじって背中にぴったりとくっつくサリアを剥がそうとした時、更に2つの影が飛びかかってきた。



 神宮の頭を詠那が、顎を鳳来が押さえた。



「わわわ、な、なにするんだ」



 3人の美少女に密着されているが、とてもじゃないがその状況を楽しめない。




 そして3人で声を合わせて言った。



「どうぞ!」


「ヨッシャ!」



 村長は、容器を傾けると、勢いよく神宮の口の中に流し込んだ。



「あばばばばばばばばごごごごご」



 神宮の口の中に、白い液体と共に様々な昆虫達がなだれ込んでいく。




 神宮は(強制的に)ゲテモノスープを飲みほした。




「男らしいわね、さすが!」


「見直したぞ」


「カッコいいです、真咲さん」



 そのような賞賛の言葉も、廃人と化した神宮には届かなかった。


 こいつら、やはり許さない。

 

 必ず復讐してやる……



 しかし、エスケープの魔法だけは習得しておこう。


 神宮はそう心に決めた。






「あぁ、除念士さんね! この上の方に住んでるよ。普段は誰にも会ってくれないけど、ワタシ手紙書いてあげるよ。そうすれば会ってくれるはず」



 ゲテモノスープの飲み干した甲斐はあったようだ、村長は徐念士への紹介状を書いて渡してくれた。


 村から離れ、更に山を登る。


 神宮は、非常に青臭いゲップをした。



「ちょっと、汚い!」



 そう言って詠那は自分の鼻をつまんだ。



「安曇野達が無理やり飲ませたんじゃないか」


「知らないわよ、我慢して!」



 神宮は両手で自分の口を押えた。




 くそう、今度は僕の熱いのを無理やり飲ませてやるからな。



 鳳来には顔にたっぷりかけてやる。



 サリアにはお掃除……




 うぐぐ……






 神宮は、青臭い空気を胃に押し込めながら、道なき道を進んで行く。





 暫くすると、目の前に高くそびえる絶壁が現れた。

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