同級生の美少女と初めての夜




 宿屋に入ると、白い髭を立派に蓄えたカーネル・サンダースのような主人が出迎えてくれた。



「いらっしゃいお客さん。おやおや、風変りなご一行様だね」



 やはり、この制服では目立つようだ。服装については、城下(首都アルテナ)で流行りの服だと答えることにした。


 早く装備を整えなくては。



「じゃあ、2部屋借りましょう。あたしとサリアが一緒で、神宮は別の部屋ね」


「えぇ!?」



 早くも、神宮の『ゆうべはおたのしみでしたね』の夢が砕け散った。神宮はガクッと肩を落とした。


 しかし、天は変態に味方した。



「ごめんねぇ、今夜は1部屋しか空いてないんだよ」


「えぇー!?」



 詠那は顔を赤らめ、必死にノーのサインをした。



「ダメよ、あんな変態と一夜を共ににするなんて。神宮、あんたは野宿ね」


「の、野宿!?」


「まぁまぁ、いいじゃないですか。わたしも一緒ですし」


「サリア、あなたはこいつの危険性に気付いていないのよ」


「そんな、普通の善良な高校生だよ。サリアちゃんもそう言ってるし、いいじゃないか。へへへ」



 そういう神宮はすでに鼻血を垂らしていた。



「ぎゃあ、神宮鼻血出てる! やっぱり変なこと考えてるでしょう」


「そんなことないって、デュフフフフ」


「いやぁぁぁぁぁ」






 泣き叫ぶ詠那をなんとかなだめて、宿屋の1部屋に収まった。


 部屋は、ベッドが4つ置かれているだけの簡素なものだった。 


 



「ふかふかですねぇ」



 サリアはベッドに顔を埋めてもふもふしていた。



「神宮、変な気起こしたらタダじゃおかないからね」


「わ、わかってるよ」



 詠那はベッドに腰掛け、腕を組んで神宮を全力で警戒している。




「では、そろそろ寝ましょうか」



 そう言うと、サリアはおもむろに服を脱ぎ、スリップのような薄い下着1枚だけの姿になった。



「はっ!?」



 神宮は、目を大きく見開き、そして再び鼻血を出した。



「ちょ、サリア!」


「え、どうしたんですか?」



 サリアは、下着姿のまま、不思議そうに首を傾けている。



 小さく細い身体から伸びる華奢な白い手足。ピンとはねたツインテールの髪の先が、柔らかそうな肩と鎖骨の上に垂れている。


 その身体を包む白い衣は肌に密着しており、サリアの控えめな胸の形さえも露わにしていた。



 よく見れば、その胸の頂点にあるものさえもポツンと見える気が――




「ガッ!!!」




 目の前から下着姿のサリアが消え、視界は突然真っ黒になった。



 詠那の正拳突きが、神宮の顔面に直撃したのだ。



 神宮はそのまま仰向けにベッドに倒れ込んだ。







 少し気を失っていた。


 神宮は意識を取り戻した。が、視界は真っ黒のままだった。身体も、手足が動かない。

 


 ただ、声だけが、はっきりと聞こえる。




「その下着、変わってますね。とても可愛らしいです」


「ありがとう、これはお気に入りなんだ」



 下着? 一体なんの話しをしているんだ。


 まさか、安曇野も制服を脱ぎ捨てて下着姿に?



「詠那、けっこう大きいんですね、羨ましい」


「そう? 肩が凝るだけよ」


「うらやましいですよ、えい」


「ちょっとやめてよ、きゃはははは。もう、サリアもさわらせてよね」


「きゃ、詠那はさわり方がいやらしいです。あ、もう。ちょ、あ……、そこは、ダメ……あぁ……ん……」




 一体2人は何をしているのだ?


 まさか、同じ室内で、すぐそばで、夢の様な光景が繰り広げられているのではないか? 



 無料動画で何度も見た、あの光景が。



 こんな時に僕は何故視力を失っているのだ……、一生の不覚。


 いや、視力を失っている訳ではない。


 これは……




 神宮は両手両足を手錠のようなもので拘束され、目はアイマスクで覆われていた。


 ベッドに貼り付けられ、身動きが全く取れない状態になっていた。これでは生殺しではないか。



「安曇野、これは放置プレイってやつかい?」


「は? この変態、そのまま一生放置してあげようか」



 詠那は、ベッドに横たわる神宮の身体を素足でぐりぐりと踏みつけた。しかし、神宮は心なしか嬉しそうな声を上げている。



「詠那、あんまりすると真咲さんが新たな領域に目覚めちゃいますよ……」


「もう、これからあんた寝る時は常にそのスタイルだからね」


「は、はい。わかりました……もっと!」


「キモい!」


「ごふあぁ!」




 神宮は、そのまま朝までぐっすり眠った。






 詠那とサリアもベッドに入り、ランプを消した。



「お風呂はいりたいなぁ。水を浴びられるところってないの?」


「ここら辺では、川や湖しかないですね、もう少し街の方にいくと公衆浴場がありますが」


「じゃあ、明日はそこを目指しましょう。ふぁ、おやすみ」


「詠那って面白いですね。おやすみ」



 サリアは、下着1枚で、大きな鎌を抱き枕のように抱いたまま眠りについた。












 やはり、異世界に転生されたのは夢ではなかったようだった。


 目を覚ますと、そこは自分の部屋の白い天井ではなく、木製の自然の温もり溢れる天井だった。



 横を向くと、制服姿の詠那がこっちを見て座っていた。



「おはよ。ゆっくり寝れた?」


「うん、おはよう。あれ、手錠取ってくれたんだ」


「朝になったからね。でもあたし達の世界に帰るまでは毎晩手錠かけるからね」


「そんなぁ」


「さ、神宮も支度しなさい」


「うん、わかったよ」



 そう言って、神宮は寝癖だらけの頭を持ち上げた。



 朝目を覚ますと、横に同級生の美少女がいるなんて、現実世界にいてはありえないことだった。


 すこし寂しい気もしたけど、異世界、やっぱり良いもんだ。




「あ、真咲さん。おはようございます」


「あぁ、おはようサリア」


「昨日はよく眠れましたか?」


「うん、延々とモリウルフに追いかけられる夢を見たよ」


「今日もそれが続くからね、覚悟しなさい」



 詠那がニヤリと笑った。



「ひぃぃぃぃぃ」






 朝食にと、宿屋のカーネルさんがパンと、何の肉かわからないけどハムをサービスしてくれた。


 お礼を言って宿を後にすると、道具屋に向かった。昨日の食事と宿代で資金を使ってしまった為、防具が買えなかった。仕方なく回復と炎の魔石を買って、ダリの村を後にした。





「服が買えなかったのは痛手ね。制服のままだと浮いちゃうわ」


「そうですね、この辺りは盗賊もいるし、あまり目立つのは良くないかもしれません」


「やっぱり昨日ポテトで我慢しておけばよかったんだよ」


「あんたも美味しいってドンドンのステーキ食べてたじゃないの」


「そうだけど」


「次の町で服を買いましょ。お風呂も入りたいし。次の町はここから遠いの?」


「それほど遠くはないですよ。山を越えればすぐです」


「でも山を越えるのか」



 神宮は、大量に資材を背負わされて山を下る自分の姿を想像した。


 今日は一体何レベルくらい上げさせられるのだろうか。





 ダリの村を過ぎるとまた森になり、やがて山道へと変わっていった。ここは一応道の形になっており、旅人達が使う街道になっているようだ。



 ガザっ、と物音がした。



 神宮は即座に小刀を構えた。


 草の影から現れたのは、昨日散々戦ったモリウルフだった。神宮は、逃げ出したい気持ちを抑え、モリウルフが間合いに入るまでグッとこらえた。


 モリウルフが、神宮に噛みつこうと飛びかかる。


 詠那は、いつでもシールドを唱えられるよう構えていた。


 しかし、神宮はタイミングよく小刀を振り下ろし、一発でモリウルフを撃退した。



「やった」


「やるじゃん。成長したわね、神宮」


「かっこいいです」



 サリアは手をパチパチさせている。


 神宮は満面の笑みで親指を立ててグッドポーズをした。






 神宮がドヤ顔でモリウルフの牙を拾っているその後ろの木の影から、神宮達の動向を伺うもの達がいた。




 異世界の脅威は、モリウルフだけではない。


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