二日酔いの鳳来に迫る魔の手





 鳳来は、神宮に支えられ、裏路地の壁にもたれて座った。



「はい、お水」


「すまない」



 鳳来は神宮から水を受け取ると、ゆっくりと一口飲んだ。



「飲み過ぎるからだよ、まだ未成年なのに」


「お主に言われたくない。昨夜、鍋にたっぷりと注がれたビールを、アジカンの曲を口ずさみながらリンボーダンスをして一気飲みしていたではないか」


「そ、そんなことしてたの?」



 それはサリアのあの冷たい視線も納得である。



「洋酒は身体に合わないな、やはり焼酎か日本酒でないと」


「ってか鳳来、あなた未成年ですよね?」



 リアル世界なら炎上騒ぎだ。



「とにかく、詠那達を探さなくては……」



 鳳来は、よっぽど気分が悪いようだった。

 鳳来がここまで弱ってるところを見たことがない。 

 そこで、神宮は思った。




 チャンスだ。




 神宮は、そっと口元を覆っている布をずらすと、顔を伏せている鳳来の横顔に、唇を尖がらせてそっと近づいた。


 神宮の唇は、鳳来の耳の穴ににゅるりと入った。


「あぁっ、ひゃっ……」



 突然の耳攻めに、悩ましい表情と甘い声を出す鳳来。



「ここが感じるんだね」



 しかし、その顔はすぐに殺意の表情に変わった。


 鳳来の目が黄金色に光り、神宮では視覚出来ないほどの速さで裏拳が飛んで来た。



「がはっ……やっぱ世の中甘くない」




 神宮は勢いよく鼻血を吹き出しながら道路に仰向けで倒れ込んだ。








 手がかりは、あの幌馬車しかない。


 馬車といっても、荷台を引いているのは、見たことない動物だった。

 馬と言うより、ダチョウが大きくなった感じだ。


 街中には、似たような幌馬車が沢山いた。



「これでは探しようがないね」


「手綱を引いてた人物は、黒いローブの怪しげな者だった。きっと、目撃者はいるだろう。根気よく探そう。



 神宮達は、必死に聞き込みをしたが、有力な情報は得られなかった。


 日は、暮れかかっていた。



「全然見つからないね。もし安曇野達をさらったのがミトロンみたいな変態だったら今頃……」


「あの変態ならまだ良い方だ。もし神宮みたいなド変態クソ外道だと思うと、詠那達の身が案じられる……しかし、連中は時子をさらうのが目的だったように見えた。一体……」


「分かった、敵は眼鏡フェチなんじゃない!?」



 神宮は、ドヤ顔で言った。

 そこに鳳来の冷たい視線が降り注ぐ。



「神宮、お主の思考回路は絶望の域に達している」



 シュンとする神宮。


 その時、先ほど聞き込みをした、人の良さそうな若い男性の村人Aが話しかけてきた。



「君たち、そういえば思い出したんだけど」


「え、なんですか!?」


「街の酒場に行ってみなよ、あそこなら色々な情報が集まるからさ、もしかしたらと思って」


「RPGみたいだな、ありがとうございます!」


「かたじけない」





 優しそうなお兄さんに礼を言うと、走って酒場に向かった。



「頑張れよぉ~」



 笑顔で手を振るお兄さん。






 少しでも可能性があるなら、行くしかない!

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