紋章の恩恵





 酒場の名前は、トリルバーと書いてあった。


 扉を開けて中に入ると、広い空間にトリルの住人や旅人で賑わっていた。


 店の奥の中央に、小さなカウンターがある。



 神宮は、ビビッていた。



 マスターに「坊や、ミルクはないよ」なんて言われたらどうしよう。



 なめられてはダメだ、ここは強気にウォッカでも注文しよう。



 

 そう思いながら鼻息を荒くしてカウンターに近づいた。

 カウンターの中には、細身のマスターがクールにコップを磨いて立っていた。


「お客様、ご注文は?」


「ウォッ――」

「情報が欲しいのだが」



 神宮がウォッカを注文しようとするのを遮り、鳳来が言った。



「どのような情報がご希望で?」


「馬車に乗っている、黒いローブに身を包んだ怪しい連中を知らないか?」



 鳳来がそう言うと、カウンターで飲んでいた1人の男がこちらに身体を向けて言った。



「場所まで突き止めてある。Y1000でどうだ?」


「1000ヤッホ?」


「あぁ、怪しい連中だったからな、アジトを突き止めるの大変だったんだぜ」



 昨晩の宿屋のオヤジがタダで泊まれたので、手元にはY1000あった。しかし、これを払ったら一文無しである。



「俺は情報屋なんだ。値は貼るが、質は確かだぜ」


「わかった、もらおう」


「まいどあり」



 Y1000を払うと、情報屋は1枚の封筒を取り出した。

 鳳来は中身を確認した。

 そこには数枚の紙が入れられており、地図と、事細かに情報が書かれていた。



「助かった、ありがとう」


「他にも色々情報あるから、またよろしく頼むぜ。帝国騎士団さん」



 神宮は、鳳来が帝国騎士団を所望した理由が分かった気がした。


 帝国騎士団の紋章があれば、こんな子供でも情報屋はちゃんとした客として見てくれる。







 地図に書かれていた場所は、街はずれの古い城跡だった。神宮達は、休むことなくそこへ向かった。


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