戦いとは、祈りそのものだ





 異世界にも、宗教というものは存在するらしい。


 街中に佇む、ひと際目立つ円錐形の建物。


 それが教会だった。



 教会の内部は、リアル世界のそれに似ている。


 左右に並べられた椅子、中央に設けられた祭壇。


 神秘的な装飾。






 結果的に、教会ではセーブもステータス異常を治すことも出来なかった。



 そこは、リアル世界と同じで、ただ、信者が集まり祈りを捧げる神聖な場所だった。





「君は煩悩が強すぎるようだ。さぁ、ここで懺悔しなさい」


「はい……」



 神父にすすめられるまま、神宮は神像の前で跪き、懺悔した。




 少し、これまでの行いを悔い改めよう。




 煩悩の塊の神宮は、この神聖な雰囲気に感化され、そういった心持になった。






 僕の頭の中にある、煩悩を追い払うんだ。





 僕の中の煩悩……


 



 煩悩ってなんだっけ……





 そうだな、例えば……





 安曇野の唇、胸、細い脚……、




 鳳来の綺麗なうなじ……、




 黄色い帽子とランドセルを背負ったサリア……、




 水着のお姉さん……、




 例のプール……




 無料動画……





 ウへへへへ……







 その時、祭壇の上の神像が黄金色に光り、神宮の顔に書かれた文様も同じようにに光り始めた。



「おおお、奇跡じゃ」



 神父は、数珠のようなものを手に、祈った。



 そして、穏やかな表情をしていた神像が、険しい形相に変わった。




「こ、これは……」




 神像から、赤いオーラが溢れだす。



 それは、一気に収束し、そして鋭いせん光となって、一直線に神宮の顔面に向かって放出された。



「あばばばばば」


「怒りじゃ……大地の神が怒っておられる!」



 赤い光を顔面に受ける神宮、必死に祈る神父。



 その光景を、一番後ろの席でお菓子をつまみながら鑑賞する女子3人。





 それは、一瞬のことだった。



 光が収まると、神像は、何事もなかったかのように、またその穏やかな表情をたたえていた。




 1つ変わったのは、神宮の顔のラクガキが、黒色からカラーになったことだった。



 その模様は、赤、青、緑、黄色など原色をふんだんに使用されており、その鮮やかさはリオのカーニバルを思わせる。






 神の御前で良からぬことを考えた神宮に、神が裁きを与えたのだ。









 奇跡を目の当たりにした神父は、神聖な面持ちでいう言う。



「神は、更なる試練をあなたに与えたのです。それは決して乗り越えられないものではありません。あなたの為を想い、神が与えたもうた試練だからです。いいですか? 諦めてはなりません」



 神父の足元で、神宮は、失意体前屈で床に項垂れていた。



「はい……ありがとうございます」






 神宮は、カラフルになった顔に布を巻いて、トボトボと教会を後にした。










「呪いを解いてもらう為に行った教会で更に呪いが強化されるとは、皮肉なものだな」


「日頃の行いが悪いのよ。もう諦めたら?」


「真咲さん……」



 神宮の身を案じているのは、サリアだけだった。


 詠那は一通り大爆笑して転げまわり、鳳来は全く意に介さない様子だった。






「安曇野、鳳来。責任取って、一生僕のパトロンになってもらうからね。部屋の掃除から、下半身の世話まで……」


「もう、そんなコトばっかり言ってるから呪いにかかるんでしょ」



 そう言って詠那は神宮の額を人差指でピンと弾いた。



「あいてっ」



 神宮が大袈裟に額を押さえた時、不意にある場所が頭に浮かんだ。



「あ、あそこに行けばあるいは……」


「うん、どうしたのよ」


「フフフ、いい考えがある」




 神宮は、勝ち誇ったようにニヤッと笑った。




「あ、そう。じゃ、あたし達お茶してくるから」


「健闘を祈る」


「頑張ってください」



 詠那達はひらひらと手を振って反対方向に歩いて行った。

 


「えぇ~、ついて来てよぉ」




 必死に追いかける神宮。






  

 神宮の煩悩によって、更に強力となった呪い。



 


 果たして、呪いを解く術は見つかるのであろうか。


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