何かお忘れではないですか





 神宮は、次の日の朝、目を覚ました。



 皆すでに神宮の奇怪な顔にも慣れており、普通に朝食を頂くと、旅立ちの用意を始めた。



「なんだか寂しいよ、いつでも遊びにおいでね」



 奥さんは、大袈裟に泣いていた。



「もうおばさん、また来るから」



 そう言った詠那たちも、もらい泣きをしてしまった。



「さぁ、アルテナを目指しましょう」






 そのように爽やかにお世話になった宿屋を後にしたが、1人、納得していない者がいた。



「ねぇ、みんな。なにか忘れてない?」



 宿屋を出てすぐに、顔に布を巻いた、暑苦しい男が立ち止まって言った。



「え、なにが?」



 詠那はきょとんとした表情で言った。



「僕の顔だよぉ、アルテナに行く前に呪いを時に行こうよぉ」



 神宮は詠那に泣き着いた。



「いいじゃない、その方が、なんだか強そうよ」


「嫌だよぉ、もし安曇野がこうなったら嫌でしょ?」



 神宮は顔の布を取った。

 詠那は神宮の顔をじーっと長め、そして空を見た。



「まぁ、全力で治そうとするわね」


「でしょ!? なら治そうよぉ」


「真咲さんが少し可哀想ですし、呪いを解きに行きましょうか」



 助け船を出したのは、サリアだった。



「そうそう、可哀想なんだよぉ」



 おぞましい顔で泣きじゃくる神宮、詠那と鳳来は顔を見合わせた。



「まぁ、仕方ないか。そう急ぎって訳でもないし」


「そうだな、こう喚き散らされては話にならない」




 詠那と鳳来は、自分たちが呪いの墨で神宮の顔にラクガキをしたことを完全に棚に上げていた。




 お前ら、覚悟しておけよ……



 この呪いが解けたら、アヘ顔でひぃひぃ言わせたるからな……




 神宮の心に、どす黒い復讐心がグツグツと煮えたぎっていた。




 しかし、今は事を荒げる訳にはいかない。

 呪いを解く事が先決だ。



「お願いしますぅ」


「でも、呪いなんて、どうやって解くの?」



 詠那が言った。


 まさに、それが問題である。



「教会だよ、RPGで呪いを解くといったら教会だ!」



 神宮は自信満々に言い切った。


 根拠は、ない。



「確かに、エクソシストとか悪魔祓いをするのは神父さんよね」


「そう言えば、昨日お買い物した時に教会を見ましたよね、行ってみましょうか」


「うむ、確かにあったな。教会に寄るくらいなら楽なものだ」




 神宮は布で顔を覆うのを忘れ、満面の笑みでスキップをしながらトリルの街の教会に向かった。

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