修羅と化した神宮





 神宮と鳳来は、夜の古街道を歩いていた。



「鳳来、もうこの顔の布、取ってもいいかな。暑いんだけど」



 神宮は、顔に巻いてある布を取ろうとした。



「ダメだ、気が散る」



 布を取ってしまうと、スキンヘッドの変態が露わになってしまう。



「え~、じゃあこのラクガキ消してよぉ。あと髪も」


「安心しろ。それは、呪いの墨で書いた。呪いを解かない限り、決して消えることはないだろう」


「な~んだ、それなら安心だぁ……」




 神宮は、ピタッと歩みを止めた。



 鳳来が振り返る。






「うん、どうした?」


「ど……どうしたじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!!」



 神宮は、両手で鳳来の肩を掴んでブンブン振った。


 鳳来のポニーテールがゆらゆら揺れる。



「どうしてくれるんだよ、この顔ぉ! 責任取って僕と結婚しろ鳳来雛月ぃぃぃぃ」



 神宮は泣きながら鳳来の肩をポコポコ叩く。



「いいではないか。普通の女性なら、まずお主を避けて歩くだろう。結果、被害に合う女性が少なくなる」


「被害ってなんだよぉぉぉぉ! 僕の方が被害者だよぉぉぉぉぉぉ」



 神宮は、地面にひれ伏した。



「僕はもう、CCOみたいに一生、顔に包帯を巻いて生活しないといけないのか……」


「安心しろ、髪は生えてくる。生きろ」


「鳳来ぃぃぃぃパンツ見せろぉぉぉぉぉ」



 神宮は、下から鳳来の制服のスカートを勢いよく捲った。


 鳳来の、小ぶりな真っ黒の下着が露わになる。



「黒とは……意外にセクシーなんだね」



 ガッツポーズをする神宮を、鳳来はサマーソルトキックで蹴り上げた。


 神宮は後ろに吹っ飛び、そのまま地面に倒れると、その場でのたうちまわって泣きじゃくった。



「泣くな。男は外見でなく、心意気だ」


「そんなこと言ったってぇ」


「待て、静かに」



 と鳳来が言ったが、神宮は聞かずに泣き続けている。


 鳳来は、周りに潜む気配に気づいた。

 しかし、神宮にスカートを捲られた衝撃で気づくのが遅れた。



 しまった、もう囲まれている。



「出て来い」


「帝国騎士団が、不用心だったな」



 周りの木々の影から、8人の刺客が現れた。

 全員、同じように黒い服に身を包んでいる。

 両手に、鋭いかぎ爪を付けている。


 こいつらも、詠那をさらった奴らの仲間だろうか。


 だとすれば、時子に似た少女(もう鳳来は彼女が別人だと気づいている)は帝国騎士団と関係のある、アルテナの者だろうか。



 今は分かりようがない。

 とりあえず、この刺客達を倒すのが先決だ。


 鳳来は、今だに泣きじゃくる神宮の下に近寄った。



「最近の男子は肌も綺麗じゃないといけないんだよぉ」



 鳳来は、胸のポケットから、細い紐に括り付けられた5ヤッホ硬貨を取り出した。

 紐の先に、5ヤッホ硬貨を吊らす。

 それを、神宮の目の前でゆっくりと左右に揺らした。



「神宮、これを良く見ろ」


「え……?」



 神宮の目は、左右に揺れる5ヤッホ硬貨を目で追った。



「お前の顔に取り返しのつかないラクガキをしたのは、そこにいる黒い奴らだ」


「あいつらが、ヤッタ……」


「そうだ。あいつらが憎いか?」


「アイツラ、ニクイ」


「そうだ、憎い」


「ニクイ」


「憎い奴は、倒す」


「ニクイヤツ、タオス」


「そうだ、さぁ、その魔法剣であの黒い奴を倒すのだ」


「ワカッタ」



 鳳来の催眠術によってバーサーカー状態になった神宮は、ガーデヴァインを抜き、その刃に炎を纏った。


 炎によって神宮の顔を覆っていた布が焼け落ち、その異様な顔が露わになった。



 スキンヘッドに、奇妙な文様がある顔。


 そして、視点が定まらない、赤く光る眼球。



 

「コロス!」



 そう言って、神宮は刺客に飛びかかった。

 刺客はその攻撃に対応できず、燃え盛る炎に斬りきざまれた。


「殺れ!」



 刺客は一斉に毒の矢を放つが、神宮はそれを手で掴み、折る。



「ボクノカオヲ、カエセ!」



 そう叫びながら剣を振りかざすと、周りが炎の海と化した。




 炎の海の中で剣を振りかざす異形の者。



 次々と悲鳴を上げて倒れる刺客達。




 遠くで控えていた刺客のリーダーは、その地獄のような光景を見て、言った。





「修羅だ……」




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