暗闇の中、ふたりきりで。
第1階層は、迷路になっていた。
通路を進むと、道が2手、3手に分かれ、間違った通路を進むと行き止まりになっていて引き返す、という事を繰り返しながら進んでいた。
ただ、行き止まりの通路の先に宝箱が置いてあるケースもあり、アイテムや魔石を手に入れることが出来た。
コウモリや大ネズミなどのモンスターも現れた。
「このダンジョンは分かりやすい造りになってるね」
神宮は2手に分かれている通路を見て言った。
「どうして?」
詠那が尋ねる。
「間違った道を選んでもストレートで行き止まりに辿りつくからさ、迷い込むことがない。間違えたら分岐まで引き返してまた他の道を進めば着実に進んでいけるからさ」
「ふーん、ガ―ディスもあれだけ言っておきながらこの訓練施設もたいしたことなさそうね。さぁ、ガンガン進みましょう!」
詠那はズンズンと進んで行く。
「あ、待って」
「なに?」
詠那が振り返って言う。
松明の火の向こうに詠那のきょとんとした顔がほんのり浮かぶ。
「さっきの分岐、まだ右の道を見てないから戻ろうよ」
「なんでよ? 分岐が現れたからこの道で合ってるでしょ?」
「行き止まりの先に宝箱があるかもしれないよ」
「そんなのいいじゃない、先を急ぎましょうよ」
「でも、ちゃんとアイテムを取っておかないとこの先苦労するかもよ? ボス戦の時とかさ」
「え、そうなの?」
神宮は、RPGではダンジョンを隈なく探索し、確実に宝箱を手に入れるタイプだった。この訓練施設でもその特性は活かされた。
そのおかげで、沢山のアイテムを手に入れる事が出来た。
いつしか、詠那も神宮と一緒になってアイテム探しに夢中になっていた。
そして2人は、アイテム探しに夢中になって大事なことを忘れていた。
松明の灯りには、限りがある――
今にも燃え尽きようとしている松明を持ちながら、2人は早歩きになっていた。
「ほら、神宮がのんびりアイテム探しなんかしてるから松明が消えそうになっちゃったじゃない」
「あ、安曇野だって楽しそうにアイテム探してたじゃないか」
「あ、あたしは早く行こうって言ってたわよ」
2人で責任を押し付けながら洞窟の中を駆けていくと、突然強い風が吹き付ける空間に出た。
松明で辺りを伺うと、どうやら広い空間になっているようだ。
神宮達は少し止まって、また歩き出した。
しかしすぐに神宮が立ち止まり、詠那は神宮の背中にぶつかった。
「ちょっと、急に立ち止まらないでよね」
「安曇野、あれ」
神宮は手前の方を指さし、松明をかざした。
そこには、30センチくらいの幅の細い道がまっすぐに伸びており、その他の地面は綺麗に切り取られてしまったみたいに深い暗闇になっていた。
洞窟の中に、深い谷があり、そこに1本の細く心もとない道が通っている。
「神宮、早く越えちゃいましょう! ここで松明の灯りが消えたら安全にアウトよ」
しかし、神宮は何も言わない。
「神宮?」
「こ、こわい……」
「はぁ?」
神宮の脚は、ガクガク震えていた。
「僕、高所恐怖症なんだ」
「バカ! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「だってぇ」
詠那は神宮の背中を押すが、神宮は地に根を張ったように動かない。
「ここはちょっと……」
「もう、早く!」
詠那は両手の手の平で神宮の背中を押す。
その時、松明の光が燃え尽き、2人は闇の世界に包まれた。
「あ……」
闇に閉ざされた道。
詠那は、神宮の手首をぎゅっと握った。
鳳来とサリアが見た先には、黒い月の一味と思われる盗賊達と、盗賊達に拘束されている黒い髪の少女がいた。
チャンスだ、後を着けよう。
鳳来はサリアに目で合図をした。
サリアも頷いて返事をする。
その時だった。
少女が盗賊達を振り払い、逃げようとした。
「クソが、殺しちまえ!」
そう叫ぶ盗賊の声が聞こえた。
盗賊は逃げようとする少女の腕を掴み、剣を振り上げた。
鳳来は咄嗟に飛び出し、少女を捕えている盗賊の腕を鮮やかに折った。
鳳来の鮮やかな技に、盗賊は何が起こったのか理解出来なかった。
そして素早く、鳳来は盗賊の顎を蹴り上げた。
「ぐはぁ」
盗賊は倒れ、失神した。
「何だお前!」
他の盗賊が各々武器を抜こうとした時、上から降っていたサリアが長剣で残っていた盗賊達を一掃する。
偵察任務中なので、大鎌は持っていなかった。
一瞬のうちに、盗賊達を蹴散らした。
「大丈夫?」
鳳来は、少女に手を差し伸べた。
少女は鳳来達よりも歳が幾分か若そうだった。
うるうるさせた瞳で見つめ、口を開いた。
「流石だな、なかなかの使い手と見える」
男の声だった。
咄嗟に鳳来達は後ろに飛んで間合いを取った。
少女の姿がもやっとした煙のように大気中に散り、男が姿を現した。
緩くパーマのかかった金髪に、青い瞳。小さい顔に、すうっと通った形の良い鼻梁。しかも細身で長身。神宮が見たら鼻血を出して嫉妬しそうなほどのイケメンである。
しかし、そのキラキラした容姿とは正反対の真っ黒な服に身を包んでいる。
こいつも、盗賊だ。
鳳来とサリアは戦闘態勢に入った。
幻術の使い手は、こいつかもしれない。
男は、奇妙な形をしたナイフを取り出した。
「君たちは、どうやら他の兵士達とは違うみたいだね。しかも、可憐な美少女。驚きだ」
「お前は何者だ?」
「おぉ、これは失礼しました。僕は黒い月盗賊団の団長、ミトロン。どうぞ、お見知りおきを」
ミトロンは丁寧にお辞儀をする。
しかし、その優雅な動作とは裏腹に、身体の奥に鈍く響くような殺気を放っている。
「逃げましょう」
サリアが言った。
サリアの額から、一筋汗が流れ落ちた。
「わかった」
一斉に、2人は後ろへ飛んだ。
木と木の間を素早く飛んだ。
しかし、一瞬にしてミトロンに追いつかれた。
ミトロンは鳳来にピタッとくっついて飛んでいる。
「実に素晴らしい身のこなしだ。僕の可愛いお人形さんになってくれないかい、ベイビー?」
「ふざけるな」
鳳来はクナイを放った。
ミトロンは斜めに飛んでかわす。
鳳来は逃げるのを諦めて、木の枝の上に止まり、忍び刀を抜いた。
「いいね」
ミトロンも向かい側の木の枝の上に止まり、ナイフを構える。
サリアは、その後ろで機会を伺っている。
「僕は、君たちを傷つけたくない。大人しく僕についてきてくれないかな?」
「断る。ここでお前を捕まえる」
「可愛い顔に、その強い精神力。たまらないよ」
ミトロンは飛び、鳳来に斬りかかる。
鳳来は忍び刀で対応する。
静かな森の中、高い金属音が鳴り響く。
サリアは飛び出そうとするが、ミトロンに隙が全く見当たらず、なかなか手が出せないでいた。
「ほーう」
涼しい顔で攻撃を繰り出すミトロン。
ふと、鳳来の耳元に近づき、囁いた。
「君、この世界の人間じゃないだろう?」
鳳来は、思ってもみない言葉に、激しく動揺した。
そして隙が出来た。
ミトロンは手刀で鳳来の首筋を打った。
鳳来は、落下しながら、そっと、意識が遠のく。
ミトロンが、端正な笑みを浮かべていた。
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