対イギル戦





 鋭く放たれた魔法の矢を、鳳来の前に立ちはだかった詠那とサリアが弾き返した。



「ヒナ、今のうちに」


「かたじけない」



 鳳来は神宮の方を振り向き、紐に吊るされた5ヤッホ硬貨を左右に振りだした。



「神宮、これを良く見ろ」


「ウウウ……」


 神宮の瞳は硬貨に合わせて左右に揺れ、やがて硬貨が動きを止めると、神宮の瞳も動きを止めた。


 そして、鳳来が神宮の目の前で両手を勢いよく合わせた。



 ――パンッ!



「はっ、僕は何を?」


「よかった」



 鳳来は、優しく微笑んだ。


 そして、イギルの方を振り返った。



「詠那、サリア、神宮を頼む」


「分かった、避難させたらすぐ来るから」


「いや、あやつは私1人で闘る」


「雛月、でも」


「このように神宮を利用してしまったのは、私だ。頼む私にやらせてくれ」



 鳳来の瞳は、揺るぎない輝きに満ちていた。



「わかった、でも危なくなったら加勢するからね」


「あぁ、ありがとう」



 詠那とサリアは神宮を抱えて時子似がいるところまで運んで行った。



「アタシも舐められたもんだわね」



 イギルは煙草の煙を細く吹いた。



「舐めてはいない、これは私の決意だ」


「ふん、アタシはそういう綺麗ごとが嫌いだよ。現実見せてやる」



 イギルは、魔法の矢を4本一気に放った。


 鳳来は素早く避ける。


 そして、クナイを投げつける。


 イギルはシールドでそのクナイを弾く。




 奴は、完全な魔術師だな。


 ならば私も――



「ファイア!」



 鳳来の手から、炎が噴き出す。



「そんな初級魔法でアタシを倒せると思ってるのかい」



 イギルにはダメージを与えられない。

 しかし、その爆炎の中から鳳来は飛び出してきた。



「なにっ」



 イギルは避けきれず、鳳来の刃をくらった。



「おのれ! サンダーボルト!」


「ぐはっ」



 鳳来は、雷の魔法をもろにくらってしまう。


 鳳来は後ろに飛び、距離を取った。



「くっ……」



 しかし、鳳来はこの時気づいた。


 魔法を、忍術のように使えないかと。


 例えば、風の魔法を使えば、映画で見た忍者のように高く跳べる――



 鳳来は新たに風の魔石をセットした。


 まず、炎の魔法で煙幕を作り出す。


 そして、その爆炎に紛れて、風の魔法を利用して高く跳んだ。


 炎の煙幕が吹き飛んだころには、そこに鳳来の姿はなかった。



「おのれ、どこに消えた!」



 鳳来は、月を背中に背負い、空にいた。


 そして、そのまま燕のように空を切りイギル目がけて落下した。



「がはっ」



 鳳来の刀は、イギルを捕えた。



「くっ……お前の事は忘れんぞ、イヅナの騎士よ、覚えておれ……ワープ!」


「待て!」



 鳳来は追おうとしたが、イギルはワープの魔法で逃走した。






 鳳来は、その場に跪いた。



 空には、大きな丸い月が浮かんでいる。

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