ハングオーバー

 




 その日、神宮は絶望した。




 昨夜の記憶が、ない。


 全くない訳ではない。


 断片的な記憶なら、ある。





 奥さんと、演歌のような歌を可愛い振付をしながらデュエットするサリア。


 自慢の髭を神宮に見せつける宿屋のオヤジ。


 灯りの消された部屋で仰向けに寝ている神宮を見下ろす詠那と鳳来。

 





 まさか、昨日の夜、詠那と鳳来によって僕は大人になってしまったのだろうか……




 神宮は、確かめるように自分のズボンに手を入れる。



 そして、驚愕の事実に気付いた。







 下の毛が、無い……






 神宮の股間は、皮を剥いたゆで卵のようにつるつるになっていた。





 一体、何が起きたのだろう?





 詠那か鳳来のどっちかにそういう性癖があるのだろうか。



 あるいは、ふたりとも。






 神宮は記憶の泉の底から、深く沈んでしまった真実を拾い上げようと、必死にもがいた。



 そして不意に頭を触った時、またもや驚愕の事実が判明した。








 上の毛も、ない。








 神宮の頭皮は、綺麗に磨かれたボーリング玉のようになめらかな半球体となっていた。



 必死に手で頭皮を触って確認するが、毛らしきものは1本も探り当てられない。





「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」






 神宮は、ムンクの叫びのような恰好で、けたたましい叫び声を上げて部屋を飛び出した。



 すると、部屋を出てすぐの廊下でサリアと出くわした。



「サリア、おは――」



 神宮がおはよう、と言い終わる前に、サリアは視線を逸らして奥へ姿を消してしまった。






 あれ、僕のこと避けてる?






 一体、昨晩、何が起きたと言うのだ。








 1ミリの痕跡も残さずに消えた、下の毛と上の毛、それにサリアの僕に対する信頼。









 どうすることもできず、神宮はただ絶望のまま、その場に立ちつくした。








 一体何があったのだろう。








 そうだ、



 手がかりを持つのは、あの2人。






 詠那と鳳来。






 神宮は真実を追い求め、詠那達の部屋に向かった。

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