シリアス回





 神宮の心臓は、今にも張り裂けそうだった。



 神宮は、黒い月のアジトに入っていた。

 前に1人、後ろに2人の盗賊に囲まれながら荷車を引いていた。


 まったく隙が無い。



 ガ―ディスを登場させるタイミングが、難し過ぎる……!




 神宮の武器や魔法石は、全てガ―ディスと共に箱の中だった。

 唯一隠し持っていたのが、エスケープの魔石だった。



 神宮が連れて行かれた先の部屋には、人1倍大きな体格をした禿げ頭の盗賊がいた。


 そいつは偉そうに椅子に座ってふんぞり返っている。


 こいつが、盗賊の頭だろうか。



「副団長、こいつが例の小僧と金です」



 副団長……頭は他にいるのか。



 副団長はクイッと人差し指を動かした。

 すると、奥にいた別の盗賊がタージェンを連れて来た。


 タージェンは、血だらけで顔が腫れあがっていた。



「ひ、ひどい……」


「団長様は金を受け取ったら返してやれと言ったが……アジトを知られて帰すバカがいるかよ!」



 そう言って副団長はナイフでタージェンの脚を指した。



「ぐっ!」


「やめろ!」


「へへへ、あの団長様は甘いからな、盗賊のなんたるかを教えてやらねぇと。小僧、お前もここで殺す」



 神宮はガ―ディスの上に乗っている箱を体当たりで退かそうと動いたが、すぐに盗賊に取り押さえられてしまった。



 ヤ、ヤバい。



 副団長は、ナイフを神宮の首筋に突き立てた。


 神宮の皮膚から、血が滴り落ちる。



「あ、あ、あ、あ、、ご、ごめんなさい」



 神宮は何故だか謝っていた。



 どうしよう、エスケープ使おうか……、


 でも、このままじゃみんな殺されちゃう。


 でも、死ぬのは嫌だ。





「神宮! エスケープを使え!」



 箱の中から、ガ―ディスの叫ぶ声がした。


 副団長は、ナイフを神宮の首から離して箱を見た。



「おい、箱の中見ろ」


「へい」



 後ろに居た盗賊が1番上に箱を開ける。



「バカ、そんな小さな箱に人間が入る訳ねぇだろ。マジシャンか! 1番下の箱だ」


「へ、へい」


「待て」


「ヘイ?」


「開ける前に槍を刺したれ」



 まさに黒ひげ危機一髪である。


 しかし、例え槍が刺さっても、ガ―ディスは飛び出すことはない。


 そのまま刺殺されるだけだ。



「な、やめろ!」


「へい」


「ぬおおおおお」



 ガ―ディスは必死に開けようとしたが、無理な体勢な上に、箱の重りと盗賊が押さえてるのでなかなか箱をあけられない。



 盗賊は、壁に掛けてあった槍で箱を一突きした。



「やめろぉ……」




 箱の板を貫く音、そして奥まで突き刺さった槍。




 盗賊が槍を抜くと、穂先には真っ赤な血液が付いていた。



「ガ、ガ―ディスさん……」


「なんだと、ガ―ディスだと?」



 しまった、と神宮は思ったが、遅かった。



「奴なら厄介だ。そのまま燃やしちまえ」


「ヘヘイ、でも金も一緒でいいんですかい?」



「金は取るに決まってんだろ。金とったら縄で縛って石乗せろ」


「ヘイ!」



 盗賊は言われた通りに金を取り石を乗せると、どこからか持ってきた油の様なものを箱にかけた。



「クソ、やめろよ……」


「ハハハ、小僧、お前には特別に見せてやるよ。ガ―ディスの丸焼きだ。やれ!」


「ヘイ!」



 盗賊は、ガ―ディスが入っている箱に火をつけた。



 箱が、一気に燃え上がる。






「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」





 神宮が必死に手を伸ばすが、その手は届かない。



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