ツンデレ詠那




 神宮は、連続斬りでスライムのプールを掘り進める。

 徐々に、身体が、スライムの中に沈んでいく。

 その間に、巨大な顔の部分が、神宮の迫っていた。



「神宮、ヤバいよ!」



 詠那は通路から身を乗り出して神宮に呼びかけた。



 しかし、神宮は逃げなかった。


 スライムに取り込まれそうになりながら、斬って、斬って、斬りまくった。

 そして、黒い芋虫を掘り出した。



「くらえ!」



 神宮は剣で黒い芋虫を突き刺した。




 ――カスッ。




「え、から?」



 神宮が突き刺したそれは、黒い芋虫の抜け殻だった。



「えぇ、命がけで掘り出したのに!?」



 油断した神宮に、スライムの波が押し寄せ、神宮を飲み込んだ。



「あばばばばば」


「神宮!」



 詠那は神宮を助けようと、スライムのプールに飛び込もうとした。

 詠那は水泳も得意なのだ。


 その飛び込もうとした瞬間、スライムの盛り上がって顔のようになっている部分に、ぷかぷかと浮かぶ大きな黒い芋虫が見えた。


 黒い身体をうねうねさせて泳いでいるように見える。



「あれは……」



 詠那は、咄嗟にライトの魔法を解除し、瞬時に炎の魔法を放った。



「ファイアーボール!」



 暗闇の中で、神宮の放ったそれよりも倍くらいの大きさの炎の塊が詠那の手の平から飛び出し、芋虫目がけて飛んでいた。


 芋虫は焼かれ、そして簡単に光の粒となって砕け散った。



 芋虫を倒すと、あれだけ空間を満たしていたスライムも消え去った。


 そして、洞窟全体に光りが灯された。



「あ、あれ?」



 神宮は、水のなくなったプールの底で茫然としていた。

 詠那は底に降り、神宮に手を差し伸べた。



「大丈夫?」


「あぁ、うん。安曇野は?」


「大丈夫よ」



 神宮は、詠那の手を握り、立ち上がった。



「安曇野、まだライトの魔法使ってて大丈夫なの?」


「もう使ってないわよ」


「え?」


「スライムを倒したら、洞窟が明るくなったの」



 ははは、ホントにRPGのダンジョンみたいだな。



「あ、ってことは扉も?」


「開いたみたい」



 2人は通路によじ登ると、部屋の出口の鉄格子もなくなっていた。



「結局、安曇野に助けられちゃったなぁ」


「まったく、もっと強くなってよね。ホント頼りないんだから」



 詠那は部屋の出口の方に歩いて行った。



「あたしは女の子なのよ、本当は守ってもらう側なんだから。……まぁ、頑張ってくれてありがとね」



「え……」



 神宮は一瞬茫然とした後、顔のパーツが溶けだしてしまったみたいにニヤニヤし始めた。



「それは一体どういう意味だい、安曇野?」



 スキップで安曇野に駆け寄る神宮。



「ちょっと褒めるとすぐに調子にのる! 近寄らないで!」


「いいじゃないか、僕が守ってあげるよ」



 そう言って詠那の肩に手を置く神宮。



「だーキモい!」


「ぐべらぁっ!」



 詠那の拳をくらい、神宮は部屋の外まで吹き飛ばされた。



「いてててて、あ……」



 スライムの部屋の次にあった空間は、小さな個室になっていた。


 そこには、魔力回復の為の魔法陣が地面に書かれてあり、部屋の隅にはベッドが1つ置かれていた。


 こ、このシチュエーションはもしや……



「げ……」



 後から入ってきた詠那は、即座に顔が青くなった。



「安曇野、今日は疲れたし、そろそろベッドに入ろうか、うへへへへ……」










 神宮は、手錠をかけられ、布団で身体をぐるぐる巻きにされ、その上からロープで何重にも縛られると、スライムのプールになっていた場所に蹴落とされた。



「安曇野、これはちょっと……」


「布団をあげたんだから文句言わないの。じゃあね、おやすみ」


「ちょ、ちょっとまってよぉ」



 神宮の悲痛な訴えを無視し、詠那は隣の部屋に戻ると、ベッドの上で横になった。



「ベッドまで用意してあるなんて、律儀な訓練ね」



 横になると、すぐに眠気がきた。





「ヒナとサリアだいじょうぶかなぁ……」

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