第50話 最後のピースがはまるとき編(1)

三月に入り、寂しさと希望の風が入り交じるこの時期、ジュンペイ、ヤナセ、アヤの三人は、 卒業式を間近に控えた中学生たちの給食時間のような、今までとはなんとなく違う雰囲気の中、会社の近くにある定食屋で昼休みを過ごしていた。



「……そうかぁ、今月いっぱいなんだ、寂しくなるな」



ヤナセは、いつもとは違う手順で焼き魚を食べたあと言った。



「……」



ジュンペイは、いつも注文するオプションの納豆を頼み忘れ、いつもとは違う白米のみを食べ終えた後、沈黙した。



「ちょっと、そんな顔しないでください。会おうと思ったらいつでも会えるんですから」



アヤはいつも注文する“サバの煮付け定食”をいつも通りに食べていると思いきや、椅子の前後を逆にして座り、背もたれを前にして、いつもとは違う姿勢で食べていた。



「……タカオカさん?」



「……あっ、ごめんなさい、ついうっかり」



アヤはそう言うと、椅子を元に戻して正常な姿勢に戻った。



「短い期間でしたけど、いろいろと教えてくださってありがとうございました」



「オレなんか別にたいしたことは……会社の階段が少し急だって伝えたことぐらいしか……」



ヤナセは即戦力として入ってきたアヤが優秀だったため、教えたことと言われてまっさきに頭に浮かんだのは、本当にそんなことであった。



「ボクだってそんなにたいしたことは、教えたことといえば……赤ワインに合うつまみの候補ぐらいしか……仕事とは関係ないし――」



ジュンペイは冗談混じりに言ったのではなく、本当に頭に浮かんだのはその光景のみであった。



「二人が居てくれたおかげで、楽しい気持ちで過ごすことができました。本当に感謝しています」



アヤは満面の笑顔で言いかえた。



ジュンペイとヤナセはしばし無言のまま、寂しそうな表情で食事を続けた。



それから少しして、ヤナセの携帯電話に連絡が入り、急遽きゅうきょ、取引先に行かなければならないということで、先に席を後にした。



ジュンペイとアヤは映画を観にいって以来、久しぶりの二人っきりという状況になり、とたんに定食屋がお見合い会場のような雰囲気に様変わりした。



「……こっ、ここの料理、値段はリーズナブルなのに、なかなかの本格派だよな」



「……うっ、うん、ここのお店、毎日のように食べに来ているけどホント美味しいよね」



「シェフを呼んで、感謝を口にしている人が誰もいないのが不思議だよな」



「――そういうお店じゃないような気がするけど。忙しそうだし」



「……」



二人はそれっきり黙り込んでしまった。



「……ねぇサクラギくん、迷惑じゃなかったら、休みの日にでもどこか遊びに行かない?」



アヤはせきを切ったように唐突に言うと、気まずい雰囲気がさらに気まずくなった。



「……おぅ、どこか遊びに行こうぜ」



少し間をおき、ジュンペイは言った。



彼はアヤの不安そうな表情を見てそう返事したのではなく、重たい空気に深く思考することができずに、流れに身をまかせるがままにそう答えた。



「ホントに、嬉しい」



「じゃあ、今週の休みはどう?」



「うん」



その後もジュンペイは流れのままに話を進め、トントン拍子にお見合いは成立した。



二人は席を立ち、会社へと戻って行った。



お見合い会場が離れていくにつれ、彼は後悔の念に駆られていった。















































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