第54話 最後のピースがはまるとき編(5)

「シャワー浴びてくるね。一緒に入る?」



「いや、後から入る」



「うん」



一度、身体を離すとクライマックスに向けての準備の為、アヤは バスルームに行った。



ジュンペイはソファーに戻り腰を下ろすと、テレビを消して大きくため息をついた。



(これって浮気じゃん……でも、べつに珍しいことでもないし。それに、やってるのオレだけじゃないし)



ジュンペイは、罪悪感を感じつつも欲求に逆らうことはせずに、欲にたいして真心をもって向き合った。



(ユキが拒絶するから悪いんだ)



自分に非があることを分かっていて心の中でヒール役を演じ、完全に確信犯である。



アヤが身支度を整えてリビングに姿を見せると、交代でジュンペイがバスルームへと行き準備に入った。



彼はシャワーを浴びながら、排水溝に流れていくお湯とともに心の迷いを浄化していこうとした。



(ピュア……そうだ、ピュアだよピュア。オレはピュアなんだよ。いまさら帰るなんて言ったらタカオカさんを傷つけちゃうだろ。そんなことオレには出来ない)



ジュンペイは都合のいい方向に正義感をもちだして自分を奮い立たせた。



脱衣所に出ると着替えが用意されていた。



(……勘弁してくれよ、なんでパジャマなんだよ。ピンクって、まさかタカオカさんのじゃないのか)



ジュンペイはこれを着てどうやってムードを作りだせばよいのかと途方に暮れつつも、素直に袖を通した。



「うゎっ……」



鏡に映る姿が予想を超えてひどかったため、思わず声を発してしまった。



(やっぱタカオカさんのだよ。小さいだろ、上も下も七分丈にボタンもかからないし。このまま出ていったら、なに言っても取調室で刑事を丸め込もうとする犯人じゃねぇかよ)



さすがにこの身なりで彼女の前に登場するわけにはいかないと思いとどまり、自前のパンツのみの姿で寝室のドアを開け、中へと入った。



そこには下着姿のアヤがベッドに座り、ドアの方に体を向けていた。



「着替えなかったんだね」



「ピンクだったから」



「ごめんね」



「いいよ、気にするなって」



「うん」



下着姿の二人が、向かい合ってお互いに覚悟を決めたような真剣な顔で言っていると、とんちんかんな内容でもそれなりにシリアスなやりとりに様変わりした。



アヤは立ち上がると、ドアのそばから動こうとしないジュンペイのほうに行った。



正面に立つと、なにも言わずに彼の背中にしがみつくように両腕をまわして口づけをした。



ジュンペイの心に幸福感が広がっていった。



それは、目の前にいるアヤに対するものではなく、ユキと過ごしてきた日常の日々の数々が感覚として駆けめぐっていた。



閉じた瞳からは、無限に涙が湧いてきて抑えることは出来なかった。



「どうしたの?」



異変に気付いたアヤは、重なった唇を離すと不安そうな顔をしてきいた。



「ごめん」



「どうしたの?」



「いや、あの……オレは……ごめん! オレはユキのことが好きなんだ! 愛してるんだ! だからごめん! 」



ジュンペイは慌てたように服を着ると、アヤのほうに体を向けて、“ごめん”ともう一度済まなそうに言うと、飛び出すようにして玄関の扉を開いて家を後にした。



アヤはソファーに浅く腰を下ろすと、悲しそうにほほ笑んだ。








































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る