第56話 エピローグ
七年後のとある日の休日。
「とうちゃん! はやくおきてよ!」
「……なんだよ、まだ五時じゃないか。昨日、水族館にお魚観に行ったんだし、今日は家でのんびりしようぜ。てか日曜の五時って、普段の日の二時だぞ」
「もうねれないよ。おきてよ」
「リク、こんなに早くに起きて、どこか行きたい所でもあるのか?」
「トイレいきたい」
「トイレだったら近いんだし、一人で行っておいで」
「かぁちゃん! ウンチもれちゃうよ!」
「オシッコじゃないのか! いま連れて行ってあげるから、もう少しのあいだガマンしてくれよ」
ジュンペイは慌ててフトンから出ると、急いで息子をトイレに連れていった。
「もらしたの? 大丈夫?」
慌ててトイレの前にやって来たユキは、ドアの前で待っているジュンペイにきいた。
「ジュン様のエスコートに失敗の三文字はない」
「二文字でしょ。間に合ったみたいでよかった」
「目、さめちゃったな。」
「うん」
夫婦、顔を見合わせて微笑んだ。
しばらくすると、少しばかり浮かない顔でリクがトイレから出てきた。
「何かあったの?」
ユキはリクと目線の高さを合わせて優しくきいた。
「なんかすっきりしない」
「大人になったら、そんなことしょっちゅうだぞ」
ジュンペイは言った。
「まだ、こどもだし。トイレじゃないよ。あそびたりない。きょうもどこかいこうよ」
リクは二人におねだりする。
「そうだな、どうせ今日は家でゴロゴロしているつもりだったし、みんな、こんな早くに目が覚めたんだ。どこか行こうか。どうするユキ?」
「もちろ~んチュ~ズ!」
ユキは近所迷惑にならないギリギリのボリュームの声で、サクラギ家の合言葉を
すると、彼女はすかさず左手でジュンペイの右手を掴み、同じ方向にカラダを向け、右の手を床につけた。
時を同じくして、リクは父の左側につき、空いているほうの手をとり、左手を床に着けた。
これは運動会の組体操などではない。
「トゥ~ス、ピ~スファイヤー!」
三人の掛け声がシンクロした。
これは、サクラギ家、“幸福を呼ぶフェスティバル”である。
ひと仕事終え、ポーズを解除して間もなく、リビングにある固定電話が鳴った。
「誰だ、こんな朝早くに。まさか両親に何かあったんじゃ」
ジュンペイは全速力でリビングまで行き、慌てて受話器をとった。
「おやじ! おふくろ! 大丈夫か!」
「……サクラギ、こんな朝早くから声張り上げてなんだよ。びっくりするだろう」
「ヤナセさんですか?」
「おう」
早朝からヤナセマモルの登場である。
「なにかあったんですか?」
「こんな朝早くにごめんな。目が覚めたら無性にバーベキューがしたくなってな。こんな時間に不謹慎だとは思ったんだが、カラダが勝手に動いて電話かけちまったんだよ」
「そんなことってあるんですね」
ジュンペイはすぐに“幸福を呼ぶフェスティバル”のせいだと悟ったが、もちろん黙っていた。
「何時ぐらいにお伺いすればいいですか」
「そうか来てくれるか、ありがとな。今から準備始めるから、一時間後に開始だ。奥さんとリクくんも起きたら来ちゃいなよ、朝からのバーベキューは格別だぜぇ~」
「もう、みんな起きてます。楽しみにしています。ところで、ヤナセさん一人ですか?」
「もちろん、家族全員起きているぜ。一緒に。お~い! みんなこっちに集まれ!」
そう言うと、ヤナセ家は電話口に集合した。
「ユキ! リク! 集合だ!」
続くように、サクラギ家も受話器を持ったジュンペイのもとに集まった。
「バーベキュ~!」
マモルが音頭を取ると、全員、利き手の拳を胸に当てて魂をこめる。
「ファイヤ~! ファイヤ~! バーベキュー! ファイヤ~!」
六人はいっせいに気持ちを声に乗せ、拳を壁の向こう側にある天に向かって突き上げた。
シアワセ~ヌ? ヒゲキ~ノ? ~結婚のはなし~ 須賀正俊 @suga
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます