第12話 風向きの変わる予感編(3)
「今から、好きになるきっかけになった出来事があり、そのことを話します。ただ、少し
「恋のキッカケなんて、後になってみると胡散臭いもんだ。続き行こうぜ」
「夏休みが始まって、一週間ほど経った時だったと思います。その日、僕は友達と二人で遊んでいました。そして、タカオカさんでも誘うかって話しになり連絡を入れたら、『今から美容室で髪を切るところ』だと言われました。終わってから会おうということになったんですが、その美容室が近くにあるということで、友達と僕は、店の中で待たせてもらうことにしました」
「美容室からどう恋に発展するんだ?」
ヤナセは、髪を切った後、雰囲気が変わった姿を見て
「店の中に入ると、ちょうどタカオカさんはカットしてる最中でした。しばらくすると、一緒に待ってた友達が悪ふざけだと思うんですけど、窓の方を指さして『ここ、七階だよな? なっ、なんで…… ちっ、“チワワ”が、“チワワ”が飛んでる! って叫んだんです」
「面白い友達だな」
ヤナセはそう言いつつ、予想外の展開に話しが進んだことで、輝きが戻った。
「タカオカさんと僕は、その友達の性格をよく分かっていましたので、いつものあれかって感じで、気にもとめませんでした。ただ、美容師さんが反応しちゃいまして。窓の方に背を向けてカットしてたんですが、『タロマルなのか!?』って言うと、慌てて後ろを振り返ったんです」
「まさか」
「たぶんヤナセさんの思っている、その『まさか』が起こってしまったんです。学校じゅうの憧れだったタカオカアヤの、“ツルツルツヤツヤキューティクルストレートロングヘアー”を、
「ホントか、そりゃあ大変なことだな」
「友人と僕は、その光景を目の当たりにし
「タカオカさんはどうなったんだ!?」
ヤナセは、事が今起こってしまったかのような口振りである。
「当のタカオカさんは、青ざめた顔をした美容師さんの方に振り向きました。そして、優しく笑顔で『ショートカットに変更してくれますか? 可愛くして下さいね』って、嫌な顔ひとつせずに言ったんです。ミスした美容師さんを責めることはしませんでした。その時、恋に落ちました」
「髪は女の命っていうしな。まして、当時高校生だろ。それで、そんな気遣いが出来るなんてな。その後はどうなったんだ?」
「その後は、今まで通り友達として接し、恋心は隠していました。でも、高校生の頃といえば、思春期真っ盛りですよね。本人や周りには気付かれたくないけど、少しでも格好良く見られたいと思いまして。タカオカさんが近くに居る時は、必ずズボンのポケットに手を入れて、『かったりぃ~』みたいな感じで振る舞っていました。それが精一杯でした」
「分かるぞ、その気持ち」
ヤナセは、豪快に笑いながらそう言うと、ジョッキに残ったビールを飲み干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます