第3話 プロポーズ編(3)

「結婚してくださいって……ジュンペイ君、私達、出会ってから一週間ぐらいしか経ってないし、会うの、今日が二回目だよね。てゆうか付き合ってもいないよね」



ユキがそう言うと、我を失いつつあるジュンペイは、このままでは二度と彼女に会えなくなると思った。もうおしまいだと追い詰められた彼の頭の中に、ふと、ひらめきという名の電流が走り抜けた。



「出会って間もないとか、付き合ってもいないとか、そんなことは関係ないと思います! 大切なのは赤い糸です。六日前、初めてユキさんにお会いしたとき、僕には感じました。ユキさんの小指と僕の小指はむすばれていました。赤い糸なんかじゃなく、赤いロープで! 経理の仕事でつちかった集中力と正確さで、あなたを集中して正確に愛し続けます!」



勢いのままにプロポーズの言葉を述べたジュンペイは、ひらめきのイメージとは程遠いセリフが口をついて出てしまった。今日のデート? 最初から最後までの行動、全てが裏目に出てしまったと思った彼は、下を向き、強く目をつぶり、両手に握りこぶしをつくってユキとの終わりを覚悟した。



「ジュンペイ君、顔を上げて」



少し長い間があった後、ユキは優しい口調で言った。しかし、ジュンペイは目をつぶったまま顔を上げようとしない。



「ジュンペイ君、本気でプロポーズしてるのか、冗談なのかわからないよ」



ユキは軽く微笑みながら、ジュンペイに語りかけるように言った。



「でも、確かに出会って間もないとか、何回デートしたとか、運命の人だったら、そんなこと関係ないのかもね」



思いもよらぬユキの発言に、風向きが変わりつつある予感を感じとったジュンペイは、うっすらと目を開き、わずかな希望の光を信じ、彼女の次のセリフを待った。



「……サプラァ~イズ!」



いきなりユキはベンチの上に立ち、両手をいっぱいに広げて空を見上げた。



ジュンペイは事の異変を感じとり、うっすらと開いていた目を完全に見開き、顔を上げてユキを見た。



「……えっ?」



彼は、非現実的なシルエットを目の当たりにし、すぐには状況を理解することが出来なかった。気付かれないよう、再び下を向き、うっすらと目を開けて元のポジションに戻った。



「ジュンペイ君!」



ユキは踊るような口調でジュンペイに問いかけると、ベンチから降りた。



「ハィ~」



ジュンペイは、久々ひさびさに顔を上げるかのようにまぶしそうな顔をし、恐る恐るユキの顔を見た。



「よし、決めた! ジュンペイ君、私『タカハシ ユキ』辞めます。『サクラギ ユキ』になります!」








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