第26話 ユキの決意編(2)
「ごめん。久しぶりに会ったのにこんな話しして、重たいよね」
ナオミはユキの浮かぬ顔を見て、申し訳なさそうに言った。
「でもさ、地元に戻ってきてこうやってユキと話していると、なんかさ、昔に戻ったような気がして、向こうに居た時のモヤモヤした気持ち、一気に吹き飛んじゃったって感じ」
ナオミは本心からそう思っているというような、すがすがしい顔をした。ユキはそんな彼女を見て、心配ではあったが、とりあえずは「よかった」と小さな声で言い、少しだけ照れくさそうな素振りを見せた。
「ワタシのほうはそんな感じかな。ユキは、旦那さんとは上手くやってる?」
「ワタシは、上手くはいって……」
ナオミの問いに、ユキは『上手くいってるよ』とは言い切ることが出来ず、途中で言葉が止まってしまった。
「ちょっとウソでしょ……いや、今のは独り言だから聞き流してよ……てゆうかごめんなさい」
ユキの様子に、ナオミは触れてはいけない地雷に踏み入ってしまったのかもしれないと感じ、ばつが悪そうに、しどろもどろになった。
「いや! 大丈夫だよ、ごめん、気まずくしちゃって……
「“表向き”は上手くやっていけているって、“仮面夫婦”ってこと?」
「“仮面夫婦”とは違うかな。仮面夫婦ってお互いに無関心で、家の中では一言も口を
ユキは今まで感覚で感じていたことを改めて口にしたことで、今まで認めたくなくて、無理矢理心の奥底に封印していた自分の本心を悟った気がした。
「結婚してから一年ちょっとって言ってたけど、そうなった原因って何か心当たりはあるの?」
「うん、4ヶ月くらい前になるのかな。夜に主人から“あれ”を求められたんだけどさ、それを拒んじゃって……その日を
「“あれ”って言うのは、夫婦間での“あれ”のことだよね?」
ナオミは“あれ”がなんなのか、“卓球ボールは丸い”ということと同じくらいに確信を持ってはいるが、一応確認してみた。
「うん、ナオミの思っている“あれ”のことで間違いないと思う」
話は続き、ユキはジュンペイと出合ってから今日まで、男女の“あれ”が一度も無いことを告白した。それを聞いたナオミはどう返事したらよいのか迷い、微動だにしなくなった。二人は、テーブルにこぼれた一本のナポリタンを見つめながら、しばしの沈黙の時間を過ごした。
「……言いたくなかったらスルーしてほしいんだけど……“あれ”が無いのには何か理由があるの?」
沈黙を破り、ナオミはききにくそうにしながらも、オブラートで前置きを作っておき、好奇心を投げかけた。
「……ごめんなさい」
ユキは謝ると下を向いてしまった。
「ごっ、ごめん、人には言えないことだってあるよね」
ナオミは慌てて好奇心にフォローを入れた。
「……実はさ、少しの間、主人とは別々に暮らそうと思っているんだ」
ユキが下を向いたままそう言うと、ナオミは口をポカンと開き、クリッとした目がさらにクリッとなり、話しの展開の速さについていけずに一人取り残されてしまった。
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