第27話 ユキの決意編(3)

「……ちょっと待って。話しが目まぐるしく変わって、頭がこんがらがっているんだけど。別々に暮らすって、“別居”するってこと?」



ナオミは呆然としながらも、話しの核心に迫った。



「“別居”とは違うかな」



ユキは下げていた顔を上げ、何か言いたげな顔をし、ナオミの目を見た。



「別居っていうと、離婚するまでのカウントダウンっていうイメージがあるんだけど、そういう目的で別々に暮らす訳ではないから、別居とは違うかな」



その後ユキは、今晩こんばんジュンペイに切り出そうとしている主旨の話を、身ぶり手振りを交えて説明した。



「……今の話し聞いてみてさ、一般的な夫婦の考えかたとは少し違うと思う。でもさ、ユキの説明聞いてみて、そういうのもありなのかなって思った。むしろ『プロフェッショナルな夫婦』って感じで素敵な気がする」



ナオミは、もう学生の頃のユキとは違うんだなぁと、彼女が成長していることを感じ、なんだか嬉しくなり、同い年にも関わらず母親が赤ん坊を見るような優しい表情になった。



「ありがとう。そう言ってもらえて、なんか嬉しいよ……でもさぁ~」



ユキは今の今まで“夫婦論”を語っていた時のインテリな顔つきから打って変わり、オチャメな子どものような表情になった。



「なんか結婚生活も色々と大変なことが多いよね。今言ったことはもちろん本心からなんだけどさ、それにプラスして“現実逃避”っていうのもあるんだよね。もう、しんどくなってきちゃってさ。だって、嫌な気持ちって、嫌でしょ」



ナオミは、やっぱりユキはユキだと思った。




その日の夜、ジュンペイは仕事を終えるとまっすぐ家に帰ってきた。彼の帰宅してからの主な仕事は夕食を食べること。



「……ごちそうさま! たまには甘口のカレーライスもいいもんだな」



任務を遂行すいこうした彼は、少しの間ソファーに座り休憩する。その後、歯を磨いたり湯ぶねにかる等、一通りのカラダのメンテナンスを行った。この日の仕事をすべて終えたジュンペイは、再びソファーに戻り腰を下ろした。そして、テレビのリモコンを手に取ると、“ボタン”を見たまま固まってしまった。どうやら見たことのない“ボタン”を見つけたらしく、押そうかどうか迷っているようである。



一方、ユキのほうはダイニングテーブルで、椅子に座って家計簿を記入していた。



「ジュンちゃん、話したいことがあるんだけど、いま大丈夫?」



ユキは下を向いて、作業の手を止めずに軽い感じで言った。



「どうしたぁ?」



ジュンペイもリモコンを見ながら、ユキと同じように軽い感じで返した。



「明日からしばらくの間、お姉ちゃんの家に泊まろうかと思うんだけど」



「そうかぁ、何日ぐらい泊まりに行くの?」



「二ヶ月……三か月ぐらいかな」



「三か月かぁ、長旅、楽しそうだぁ、達者たっしゃでな……ておい!!」



ジュンペイはリモコンを投げ捨て、ソファーから飛び上がるようにして立ちあがり、ユキのほうにカラダ全体を向けた。















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