第25話 ユキの決意編(1)

ジュンペイは自宅に戻り、ドアを開けて玄関に一歩足を踏み入れると、いつもとは景色が違って見えた。そこには、ユキの優しさで溢れんばかりの温かな橙色だいだいいろが空間を覆いつくしていた。彼の目からは彼女に対する想いを止めることは出来なかった。



「どうしたの……ジュンちゃん?」



ユキは、家に帰ってくるなり涙を流しいるジュンペイを見て、不安を覚えつつ声をかけた。



「……いや、今日観た映画のこと思い出しちゃって」



「……そんなに泣ける感動大作だったんだね」



「おう。後でセリフ再現してやるよ」



そう言うと、ジュンペイはリビングへと歩いていった。その後ろ姿を見てユキは悲しくて泣き出しそうになったが、すぐに笑顔を作りジュンペイの後に続いた。



それから一か月が過ぎ、ジュンペイとアヤは仕事の休憩時間などには、二人っきりで談笑したり、会社の外に昼食を食べに行ったりなどはしていた。しかし、特に大きな波は起きることはなく、複雑な気持ちを抱えたまま時間だけは流れていた。



この日、ユキは学生時代の友達とカフェで待ち合わせをしていた。店の中に入ると、すでに友達のナオミは、レジの近くにある待合室の椅子に座って待っていた。



「ナオミ! お待たせ!」



「ユキ! 久しぶりだね!」



「ナオミ、全然変わってないじゃん。あれ、会うのって何年ぶりぐらいだっけ?」



「専門学校を卒業して以来だから、十年は経っていないのか」



「時が経つのは早くてこわいね」



二人は席に案内されると、向かい合わせに座り、メニューを注文した。



ナオミは、ユキとは服飾の専門学校に通っていた頃の同級生であり、背が高く、小さな顔でモデルのような容姿である。二人は専門学校を卒業してからのいきさつや、昔の思い出話に花を咲かせた。



「まさかユキが結婚したなんてビックリだわ。まぁ、あんたカワイイ顔しているから男子にモテてはいたよね。でもさ、確か学生の頃は彼氏いなかったよね? ていうか作らなかったんだよね。それに、それ以前も誰とも付き合ったこと無かったんじゃなかったっけ?」



「うん」



「やっぱり、そう言ってたもね。だって、ずっと男には興味ないと思ってたも」




「うん、実はただのムッツリだったの」



そこから二人の話しは更に深くなっていった。ナオミのほうは二十五歳の時に結婚し、その後、結婚生活はわずか十ヶ月でピリオドを打ったということ。専門学校を卒業した後は、東京にあるアパレル企業に就職し、結婚した後も続けていた。そして今回、母親の体調がかんばしくなく、父と母が二人で経営しているペットショップを継ぐ為、会社を辞めて地元にある実家へと帰ってきたということだった。



一通りの情報交換を終えてユキは迷った。離婚のこと、母親の体調のこと、どちらの話しもこれ以上は控えたほうがよいのではないかと思い、違う話題を振ろうとした。だが、この流れから何を言えば不自然に思われないのか、彼女を悩ませた。



「……とっ、ところでナオミは、これからの日本経済はどこへ向かうと思う?」



ユキは判断を誤ってしまったみたいである。



「質問がぎこちなさすぎるよ。そんなに気を使わなくても大丈夫だよ」



ナオミは笑いながら言った。



「……じゃあききます。おばさんの体調は大丈夫なの?」



ユキはあらためてきいた。



「うん。体調が悪いっていっても、命に関わるようなことじゃないからね。最近、腰痛で辛いらしくて。と言っても仕事が出来ないほど悪いって訳でもないんだけどさ……」



そう言うと、ナオミは目線を下にやり、次の言葉を言おうかどうか迷っている素振りを見せた。



「……正直言うとね、実は、逃げ出して来たんだ」



「え?」



ユキは話しの変わりようについていけず、目を丸くした。



「ホントのこと言うと、親は別に帰ってこなくても大丈夫だとは言っているの……向こうに居ると、嫌なことばっかりでさ。結婚生活も上手くいかず、結局別れちゃったし。仕事のほうも、人間関係で色々とあってさ……それで、お母さんのことを口実に逃げて来たんだよね」



ナオミの告白に、ユキは何を言うのでもなく、ただただ、友達のことが心配だった。















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