第16話 心の仮面編(3)
「ヤナセ君、サクラギ君の処分が不当だということは、私の考えが方が間違っているとでも言いたいのか? まぁいい、続きを聞かせてくれ」
アオキは、険しい目つきでヤナセを見た。だが、口振りはソフトである。
「はい。サクラギは上司に対して暴言を吐きました。ただ、それはアオキ部長のおっしゃる、組織を壊す行為とは少し違うと思います。これがもし、彼自身が上司であるシバタさんから
ヤナセの訴えを受け、アオキは険しい顔は崩さずに、少しの間考え込んだ。ヤナセは
「サクラギ君!」
アオキに呼ばれ、ジュンペイは返事をすると、ヤナセの隣まで駆け足で移動した。
「……サクラギ君、今回はヤナセ君の言うとおり、人として、キミのとった言動は正義に
アオキの表情は、険しさの中にも優しさが入り
「アオキ部長、ありがとうございます!」
「申し訳ございませんでした!」
ヤナセが頭を下げると、ジュンペイもそれに続いた。ジュンペイは浮かない顔つきである。
「シバタさん、ちょっと話しがあるから来なさい」
アオキに言われ、シバタはひきつった顔で、少し
ジュンペイとヤナセは、人のいない会議室へと移動した。
「かばってくれてありがとうございました。でもオレ、間違ったことは言ってませんよね!? 謝る必要なんかなかったんですよ!」
ジュンペイは、必死に訴えかけるようにヤナセの目を見た。
「オマエの言いたいことは分かるよ。オレだってシバタには腹が立ったよ。でもな、オレたちはサラリーマンなんだ。正義を
ヤナセはジュンペイを|諭《さと」すように言った。
「オレは、あのまま続けてクビになったってよかったんですよ! 会社だとか組織だとか、もっと大切なものがあるでしょ! 余計なことはしないでほしかったです!」
ジュンペイは感情が高ぶっており、ヤナセが自分の意見に同調してくれなかったことに腹を立て、困らせようと思い口走った。
「バカヤロウ!!」
ヤナセは、会議室の外にもハッキリと聞こえる声で、ジュンペイを怒鳴り付けた。
「オマエはそれでよくても、カミさんはどうなるんだよ! 家族を悲しませるような無責任なこと言ってんじゃねぇぞ!」
ヤナセは目に涙を浮かべている。ジュンペイは何も言い返すことはせず、自分の言ってしまったことに後悔をしている。
「それにな、オレはオマエのことが可愛いんだよ。十年近く、ずっと励ましあって頑張ってきたじゃねぇかよ。たのむからそんな悲しくなるようなこと言わないでくれよ。これからもずっと、死ぬまでコンビでいようぜ」
ヤナセは、こらえていた涙を抑えることが出来なかった。ジュンペイもまた、感情から
「……なんかよ、このシチュエーション。誰かに見られたら勘違いされそうだな」
「お互い想いあっているのに、家庭の事情で別れなきゃいけないカップルに見えませんか」
「だな」
涙は
「サクラギ、もう少ししたら仕事に戻るからな」
「はい。ヤナセさん、オレ、幸せです。ありがとうございます」
「ばかやろぅ」
ヤナセは照れ笑いを浮かべ、ジュンペイの肩を、軽く手のひらで叩いた。
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