第17話 心の仮面編(4)
この日、仕事を終えたジュンペイは、すぐには家に帰らなかった。会社の正面玄関を出ると、すぐそばにあるベンチへと座った。そして、自動販売機で買っておいた缶コーヒーをカバンから取り出し、缶のフタを開けると、チビチビと飲み始めた。『サラリーマン・サクラギジュンペイ』から『ユキさん
「サクラギくん」
ジュンペイが声の聞こえる方へと顔を向けると、アヤが缶コーヒーを二本持って立っていた。
「お疲れさま。横に座ってもいい?」
「おっ、おう。少し
ジュンペイが言うと、アヤは彼の隣に座った。
「うゎ、ホント固いね」
「でしょ! 前から思ってたんだけど、やっぱりこのベンチ、少し固いよね」
アヤは軽く微笑んだ。
「缶コーヒ持ってきたけど、要らないよね」
アヤは、ジュンペイがすでに手に缶コーヒを持っているのを見て言った。
「えっ! いやいやいや、もらうよ。ありがとう。誰だよこんな所に飲みかけの缶コーヒーなんか捨てていったやつ!」
ジュンペイは、今まで飲んでいた手に持った缶コーヒーを、他人が捨てていったものだとし、なぜかカバンの中に
「中身入っているんじゃないの?」
「いいのいいの! オレのカバン汚れてるし。それより飲もうぜ」
ジュンペイは、アヤから差し入れの缶コーヒを受け取ると、同じタイミングでフタを開け、二人は一気に飲み干した。
「さっきは、私のせいでごめんなさい」
コーヒーを飲み終えてまもなく、しんみりとした空気へと一変する。
「別にタカオカさんが謝ることないよ。オレが勝手にキレただけなんだし。それより、大丈夫だったか」
「うん。私は大丈夫だよ。ありがとう」
ジュンペイの優しいニュアンスの言い方に、アヤは今にも泣き出しそうになりながら、お礼の言葉を言った。
「そんな顔するなよ。何かあったらいつでも相談しろよ。なんてったってオレのバックにはヤナセさんがついてるんだぜ」
ジュンペイは、アヤを元気づけようと陽気に振る舞った。
「サクラギ君がかばってくれた時、すごく嬉かったよ」
「おっ、おう」
ジュンペイは照れ隠しのためか、気取った言い方をした。
「もしよかったら、今週の日曜日、映画でも見に行かない?」
アヤの予想もしていなかった発言に、ジュンペイは戸惑いを隠せないといった様子である。
「無理だよね。奥さん心配しちゃうか」
アヤはジュンペイの表情を見て、発言を訂正した。彼女は笑顔で言ったが、寂しさは隠しきれないといった感じである。
「……行こう、奥さんのことだったら大丈夫だよ。別に女性と二人っきりで出かけるっていっても、やましいことなんて何も無いんだしさ。映画、見に行こうぜ!」
「本当に! すごく嬉しいよ。そしたら楽しみにしているね」
アヤは、心の底から
それから二十分ほど雑談を交わした後、二人は別れて家に帰った。帰り道、ジュンペイは後悔の気持ちを抱いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます