第40話 リアルネクタイ編(4)
四時間後、二人は集合時間の三十分前に、携帯電話のアラームで目を覚ました。そして、ヒメが置いていった巾着袋から制服を取り出した。
「ちょっとヤナセさぁ~ん!」
「どうしたサクラっ、おい勘弁してくれよ!」
「どうしますか!?」
「もう時間がないから、とりあえず着替えるしかないだろう~よ!」
二人は初めて着る型の服装に四苦八苦しながらも、なんとか
「あのババァ、やっぱり頭おかしいよな? 何で“全身タイツ”なんだよ」
「まったくですよ。でもヤナセさんは“黒”だからまだマシじゃないですか。なんでオレのは“金色”なんですか!」
二人は睡眠不足であることも忘れて、ヒメに抗議しに、駆け足で集合場所である“体育室”へと向かった。
「ヒメ、まだ来ていないよな。いま何時なんだ?」
「もう六時三分です」
「六時過ぎているじゃねぇかよ」
「ヒメの部屋に行ってみますか?」
「そうだな、たしか“管理人室”って言ってたよな。よし行ってみようぜ」
分別をわきまえた“黒”と“金”は、ダッシュでヒメのもとへと向かった。
“管理人室”の前まで来た二人は、インターホンを鳴らした。だが、応答はない。もう一度鳴らしてみたが、やはり、中からの反応はない。
「中にいないんじゃないのか」
「あれ、カギ開いていますよ」
「悪いことをしようとしているわけではないんだ。仕方がないから開けてみようぜ」
「はい。それじゃあ開けましょう……失礼しま~す」
ジュンペイはゆっくりとドアを開けた。
「あっ……」
ヒメは気持ち良さそうに眠っていた。彼女は一度は起きようとしていたのか、目覚まし時計の電池がはずれ、時刻は五時三十五分で止まっていた。
「どうしますか、気持ち良さそうに眠っていますけど、このままにしておいたほうが――」
「そうだな。起きて来ないほうが悪いんだし、今日の鍛練は昼過ぎからだな」
二人は目覚まし時計の電池だけ入れて、証拠隠滅を図ろうとしていた。だが、このとき“金”は気が付いていなかった。自分の“性質”に……
「あら、おはよう。サクラギさん、少し
そう、カーテンから
「ヒメ、心配しましたよ。時間になってもいらっしゃらなかったので、体調のほうは大丈夫ですか」
ヤナセは、忍法、変わり身の口を使って紳士に様変わりした。
「よかったぁ~、何事もなくて」
ジュンペイは、紳士の愛犬を演じた。
「第一関門、合格です」
「……ん? どういうことですか?」
ジュンペイは尋ねた。二人の“クエスチョンアンテナ”は“強”になっている。
「ワタシは寝てなどいません。あなたがたが来るかどうか確かめていました。ワタシがいないことをいいことに、そのままサボるのかどうかを――」
(ウソつけ!)
(イビキかいてたじゃないかよ!)
二人は心の中だけでツッコんだ。
あらためて三人は“体育室”へと移動した。
「それでは、まずはケガ予防のため、“ビデオ体操”から始めます」
「なんでマイク使うんだろうな」
「ええ、三人しかいないんですよね」
二人がビデオ体操をしている間、ヒメは寝起きのためか目が虚ろだった。
「それでは、本格的な鍛練をスタートします」
「ちょっと待ってもらっていいですか?」
ヤナセは、いつもよりもパワーのない声で言った。
「どうしましたか?」
「あの、なんだかお腹が空いてしまいまして」
ヤナセはお腹をさする形を見せてアピールした。
「――それもそうですね。“腹が減っては戦はできぬ”と言いますからね。分かりました、食事室に移動しましょう」
三人は食事室に行き、ヒメは厨房き入ると調理を開始した。ジュンペイとヤナセは適当な場所の席を選び、料理が出来るまで座って待機していた。
「腹減って動けないな」
「はい、食事が待ち遠しいですね」
「どんな料理が出て来るのか、待ち遠しいな」
「そうですね。おふくろの味、久しぶりだなぁ~」
「ところでよ、カミさんとは連絡取りあっているのか?」
ヤナセは、二週間前にジュンペイと飲みに行った日以来、久しぶりにユキの話を切り出した
「いえ、家を出て行った日から、一度も連絡を取りあっていないです――きっと、忙しいんですよ」
ジュンペイは笑顔で言ったが、寂しさは隠しきれていなかった。
「おまたせしました。出来ましたよ」
ヒメは厨房から料理を運んでくると、二人の居るダイニングテーブルへと置き、彼女も一緒に朝食を取ることにした。
「いただきます」
二人は、人生で最後の食事だったら、きっと、こういうふうに食べるであろうという姿とは真逆の食べ方をした。
「ちょっと、もう少し味わって食べてちょうだい」
ヒメはせっかくの
「すみません。あまりに美味しくて、つい止まらなくなってしまいまして」
「ホント、こんな美味しいチャーハン、なかなか食べられませんよ」
二人は心からそう思っていたが、その食べっぷりが説得力を失わせた。
「それよりヒメの朝食はこれだけなんですか?」
ジュンペイの関心はヒメには向いていなかったが、なんとなく尋ねてみた。
「私は“白イチゴ”以外食べません」
ヒメはそう言うと席を立ち上がり、何も言わずにおそらくはトイレへと行った。
「“白イチゴ”しか食べないとか、昔のアイドルみたいなこと言うな」
「そうですね、トイレには行っちゃいましたけどね」
「しかし、ホントに美味いな」
「会社の近くにこの味があったら、毎日でも通い詰めますよ」
二人は、ヒメの料理の
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