第6話 新婚生活編(2)

会社へ出勤し、オフィスに入ったジュンペイは、いつものように挨拶をしてまわり、席へと着いた。それから五分ほどすると、これまたいつものように、先輩であるヤナセが到着した。周りに挨拶を済ませると、ジュンペイの座る席へと、磁石のように吸い寄せられるかのように来る。



「あっ、ヤナセさん、おはようございます!」



「おおっ、サクラギ、おはよう! 」



ヤナセ マモルは、ジュンペイより五歳年上の先輩にあたる。落ち着いた風貌ふうぼうと低く包容力のある声、ゆったりとした話し方の為か、三十三歳という実年齢よりも十歳前後、年上に見られることがよくある。



「おっ! 今日も『花閣寺はなかくじ 』のがらの入ったネクタイ、きまってるじゃないか」



ヤナセは挨拶の後、必ず、いつもジュンペイが身に付けてくる『花閣寺』の柄の入ったネクタイをいじる。



「ヤナセさん、からかわないで下さいよ! 妻が好きだから仕方ないんっすよ」



ジュンペイがそう言うと、ヤナセは満足気に笑った。



「でっ、弁当もいつものあれか?」



ヤナセはいつもの流れで、ネクタイネタに続く、お決まりの質問に入った。



「ええ、『花閣寺』のキャラべんです」



ジュンペイは、いつも通りに答える。というよりは読みあげた。



「出たぁ~! ハ! ナ! カ! ク! ジ!」



ヤナセは、右手の人差し指を立て、顔の右側よりも少し離した位置に持っていき、その指を左右に振りながら言った。彼は、これがやりたくてしかたがないらしく、見た目とは裏腹に、とても大人気おとなげないのである。



「もう、そんな大きな声で止めて下さいよ。メチャクチャ恥ずかしいんですから」



「分かったって……ハ、ナ、カ、ク、ジ」



朝から火のついたヤナセの悪ノリは止まらない。



「でもよ、『花閣寺』って建物だよな。そういうのって、キャラ弁っていうのか?」



この日の仕事は定時に終わり、ジュンペイとヤナセは、行きつけの焼き鳥屋へと足を運ぶことにした。店に着くと、二人は真っ先にビールを注文し、至福しふくの時間を開始した。



「いや~、仕事終わりの一杯は格別だな!」



「ホント、天使てんしっすね!」



二人は隣り合わせに座り、お互いに顔をほころばせ、全身でビールの味を感じた。



「サクラギ、ところでよ、カミさんとは上手くやってるのか?」



「話せば長くなりますけど、気になりますか?」



「気になるっていうか、結婚してもうすぐ一年だろ。子供の予定とかはどうなっているのかなぁって。違うぞ、これはセクハラ発言じゃないぞ。気分を害してしまったんなら、申し訳ない」



ヤナセは、ナーバスな問題だと思い、すぐに話題を変えようとした。だが、次に頭に浮かんできたのが『花閣寺』ネタだった為、これはこれでまずいと感じ、グッと押し黙った。



「いやいや、全然気分を害してなんかいないですよ」



ジュンペイは、焼き鳥を頬張ほおばりながら言った。



うちは、今はそういった予定はないですね……ていうか、無いんですよ。結婚してからっていうか、出会ってから一度も」

























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