第51話 最後のピースがはまるとき編(2)
日曜日。ジュンペイは目覚ましの鳴る少し前に、大群のカラスの鳴き声で目を覚ました。
(うるせぇなぁ! でも、なにか不吉だな)
ジュンペイは今日、アヤと二人っきりで会うことにより、その後に男と女の修羅場が待ち受けている予感を感じつつ、ベッドから起きあがりカーテンを開けた。
(なんだ、雲ひとつ無い晴天じゃないか……思い過ごしだな)
ジュンペイは無理やりに言いきかせた。
待ち合わせ時刻の三十分前に目的地に到着したアヤは、周りを見渡してジュンペイがまだ来ていないことを確認すると、カバンから手鏡を取り出して風でなびいた髪を整えた。
「よし」
「よし!」
「えっ?」
アヤが髪を整え気合いを入れると、すぐ後ろから、毎日のように耳にする男性の声で、やまびこのように同じ台詞が返ってきた。
あわてて振り返ると、目線のすぐ先には、いつも目にしている首の後ろ側のホクロがあった。
「サクラギくん!?」
アヤが慌てた口調で問いかけると、ジュンペイが振り向き、クシで前髪を整える仕草をしていて、慌ててポケットの中にしまい込んだ。
「えっ、いつから居たの?」
アヤは恥ずかしそうに訊いた。
「いつって、いま来たばっかりだけど――タカオカさんこそいつから居たの?」
ジュンペイは、顔を真っ赤にしながら同じことをきいた。
アヤは彼の表情を見て、おめかししている姿を見られていなかったんだと思い安堵した。
「そろそろ開館時間だよ」
「おっ、おう」
ジュンペイは二枚目キャラでもないのに、恥ずかしさで耳の赤みが収まらない。
「一番乗りで行こうぜ」
「うん」
週末の水族館に、開館時間ギリギリに来て一番乗りになれるはずもなく、二人は大勢の客のうちの一組として、幻想的な暗闇の中へと入っていった。
「思ったよりも混んでるね」
「子供連れの家族かカップルばっかだと思ってたけど、一人で観に来てる人もけっこう居るんだな」
「そうだね。水族館ってなかなか来ることないからワクワクする」
「確かに意外と来ること無いよな。非日常的でワクワクするよな」
「うん!」
アヤは嬉しそうに満面の笑みを見せ、右手でジュンペイの左手を握った。
彼は困惑にも似た感情を抱いたが、同時に嬉しさの感情も湧きおこり、結局、後者側が勝り、拒絶せずにギュッと握り返した。
そこには二人だけの世界があると思いきや、周囲を見渡せばそこらじゅうに似たような世界がいくつもあり、いまいち陶酔することが出来なかった。
「見て、サメだよ」
「ホントだ、でけぇな」
「強そうだね。こんなのに襲われたらまず助からないね」
「……オレのほうがつえぇよ!」
ジュンペイは握っていた手を放し、アヤのほうに向かって、手を広げて訴えかけた。
「……」
アヤは気の利いた言葉をかけることも出来ず、好きな人でありながら、恥ずかしさからこの場は他人を装いたい衝動に駆られた。
気を取り直し、二人は再び手をつなぎ直して終盤へと向かっていった。
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