第45話 宿敵との対談編

怒涛どとうの二泊三日から一夜が明け、ジュンペイとヤナセは自宅に戻り軽く仮眠をとると、十二月の繁忙期まっただなかの会社へと出勤した。



二人は休みもままならず疲れきった表情を浮かべていると思いきや、お互い顔を見合わせると、無言で生気のみなぎるような笑顔を向け合った。



早くも花閣寺での鍛練の効果が出ているようである。



「みんなビックリするだろうな、俺たちのパワフルな姿見たら。鍛練の成果、会社の連中にみせてやろうぜ」



「あれだけの非日常、理不尽を経験したんです、会社の業務なんてちょちょいのちょいですよ」



二人は確かな手応えを心に抱き業務を開始した。



だが、夕方頃には心のよりどころであった花閣寺での鍛練の成果もすっかり影を潜め、一週間以上まともに休息をとっていない現実がどっと身体に襲いかかってきた。



「サクラギ、今日といえば休みの次の日だよな――ヤバイな」



「栄養ドリンクを飲んでも効果の出ない月曜日なんて――まずいですね」



それからの二人は、オフィスにいる他の誰よりも苦悶の表情を浮かべて仕事に取り組んでいた。



時刻は午後四時をまわり空が大人のムードに包まれようとしている頃、アヤが用事のため一度会社を出て、用件が済みしだい戻って来るとのことでオフィスを出て行った。



『用事って、なんなんですかね?』



『タカオカさんが業務の途中で離れるなんて珍しいな。よっぽろ大事な用事なんだろう』



二人はパソコンのメールでやりとりをした。



アヤは会社を出るとタクシーに乗り、目的地へと向かった。



十五分ほどが経ち、車は国立病院の正面玄関の前で停止した。



彼女は車を降り、受付で面会の旨を伝えると、教えられた番号のある部屋へと移動した。



部屋の前に立つと、アヤは少し緊張した面持ちでドアをノックした。



中から応答がありドアを開けると、そこにはベッドから起き上がりこちらを見ている宿敵、おつぼねのシバタの姿があった。



「何しにきたのよ」



シバタはアヤから顔を背けながらそう言い、警戒している様子である。



「体調が悪くて入院したってきいたから、様子見に来ちゃいました」



アヤは少し意地悪な口調で言った。



「ざまぁみろって思ってるんでしょ」



「そうだったら、わざわざ仕事中に来ないと思いますけど――それで、体調のほうは大丈夫なんですか?」



アヤの表情は不安な顔に変化した。



「残念だったわね、ただ過労で倒れただけよ。来年早々、復帰するからね」



シバタはアヤとは目を合わさず、意地になったような口調で言った。



しばしの沈黙が流れた。



「どうしていつも、そんなにつっかかった言い方をするんですか!? 不良かよ」



「あっ、あんた、誰に向かってそんな口利いてるか分かってるの」



シバタは、アヤの自分に対する予想外のもの言いに、目を見開き同様している様子である。



「元気そうで良かった」



アヤはシバタの目を見て嬉しそうに微笑んだ。



「なっ、なによ気持ち悪いわね」



シバタはうろたえながらも穏やか気持ちに移行していった。



「じゃあ、仕事中だからそろそろ行きますね……よかったらどうぞ」



アヤはそう言うと、カバンの中から栄養ドリンクを取り出して手渡し、シバタは無言で受けとった。



「早く良くなって、また、思いっきりいびってくださいね」



アヤは笑顔でそう言うと、ドアを開けて部屋を出ようとした。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」



シバタはあわてた素振りでアヤを引き止める。



「……悪かったわね、あの時は理不尽にみんなの前で怒鳴り付けたりして」



「……」



「悔しかったのよ、あんたに嫉妬してたの……なぜかは深くはきかないで」



シバタはバツが悪そうな口調で言った。



「いいんですよ。それに、あの時は私の方こそ、反抗的な態度をとって申し訳ありませんでした」



アヤもバツが悪そうな顔をしながら言った。



二人は同じような表情をしながらお互いに見つめ合った。



そして、照れくさそうな笑顔を見せ合った。



「気をつけて戻るんだよ」



「はい。待ってますから」



そう言うと、アヤは部屋を後にした。



部屋の中には、穏やかな空気が流れていた。

































































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