第47話 姉妹は南へ! 編(2)

二人は宿泊する旅館に到着すると、部屋を堪能するのは後からにと、荷物を置くとすぐに町へと繰り出した。



「せっかく来たんだしさ、町中じゃなくて、まずはこう、観光名所巡りをして、買い物は最後の日でいいんじゃないの」



「お姉ちゃん分かってないなぁ、女性にとってショッピングは最高のストレス発散でしょ。先に“モヤモヤ”を取り払って、その後、晴れやかな心で観光名所を観たほうがキレイに見えるでしょ」



「……」



サチコは内心、案外、今のは的を射た発言だと思いつつも、いつも妹の前ではお姉ちゃん面して少し偉そうだということを自覚しているため、感心した表情とは真逆の顔をした。



「ちょっとお姉ちゃん、そんなブルドックみたいな顔しないでよ」



「……ありがとう」



サチコは、気持ちと表情筋のアンバランスさから、ユキの言葉の真意をつかめないでいた。



二人は初めての道に四苦八苦した結果、まるで迷った時の定番のような、昼間なのに薄暗い、人気ひとけの少ない路地裏へと入った。



「道まちがっちゃったみたいだね」



「そうだね、あっちの方だよ」



サチコが指差した方へと歩き出して間もなく、向かい側から一人の男が歩いてきて、二人の前で立ち止まった。



「ねぇ、よかったら一緒に遊ぼうよ?」



肩までかかる金髪に色白、毛皮のコート姿の、一昔前のホスト風の雰囲気を漂わせたその男は、軽い感じの口調で見た目にふさわしく片落ちの古くさいセリフを吐いてきた。



「二人だけで色々と見てまわりたいので結構です」



サチコは間髪を入れずにキッパリと断った。



ユキも『そういうことなので』と言わんばかりにペコッとあたまを下げた。



「はぁ、バカにしてるのか? オレが行こうと言ったら行くんだよ!」



男は態度を豹変させて、二人を交互ににらみ付けながら怒声をあげた。



「脅しですか。警察呼びますよ」



サチコはひるむことなく正々堂々と言った。



「いいから来ればいいんだよ!」



男はサチコの目の前に行くと、今にも手を出してきそうな剣幕で威嚇いかくした。



サチコは『上等よ!』と言わんばかりに挑戦的な目で男の目を見て視線をそらさない。



一触即発の状況に、姉の横に居るユキは表情一つ変えずに、カバンの中から炭酸飲料の入ったペットボトルを取り出し、フタを開けた。



「お姉ちゃん伏せて!」



ユキが声を張り上げそう言うと、隣に居るサチコは、妹が何をしようとしているのか見当もつかなかったが、言われるがままにその場にしゃがみ込んだ。



ユキはペットボトルに口を付け、炭酸飲料を飲み始めた。



そして、頬を膨らませ口の中いっぱいに液体をため込んだ。



次の瞬間、補充したエネルギーを、男の顔目掛けて一気に放出した。



「お姉ちゃん、いまのうちに逃げるよ!」



ユキがそう言うと、サチコはその場で状況を飲み込むことは出来なかったが、妹に言われるがままに、二人は男の横を通り抜けて走り去った。



男は、キレイな身なりのとっくに成人は過ぎているであろう女性がとった行動が、にわかには信じがたく、心は完全に遠い星に行っていた。



「……えっ?」



男が地球に戻って来た頃、すでに二人の女性の姿は無かった。


















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