第33話 魂を立て直す編(2)

その後、ジュンペイは、仕事中はプライベートのことは忘れるがごとく、業務に没頭した。そんな彼の姿を見て、一人の人間が感化された。『ヤナセ マモル・夢・一生親知らずが出て来ないこと』後輩に負けじと熱が入る。先輩の打つキーボードの速度は、コンピュータが反応出来る限界の、三パーセントに迫ろうとしていた。



仕事が終わった後、ジュンペイはヤナセを誘い、いつもの焼き鳥屋に寄って行くことにした。飲み始めたて五分ほどが経った頃、ジュンペイは、ユキと別々に暮らし始めたことと、そのようになってしまったいきさつを話した。



「……カミさんの考えに、賛同してのことなのか?」



「ホントは嫌だったんですよ……しかたがなく、オッケーしてしまったって言うのが本音です」



「そうか……」



ヤナセは言葉が続かない。



「“人間力アップ”とか“尊敬しあえる関係”だとかいろいろ言っていましたけど、本音ではどう思っているんですかね……」



ジュンペイは、そう言うと深いタメ息をついた。



「それはカミさんにしか分からないことだと思うけど、サクラギは愛しているんだろ、カミさんのこと」



「もちろんですよ」



ジュンペイは速答した。



「だったら、信じてあげたらどうだ? 愛している人の言うことなんだからよ」



ヤナセの横顔は優しく、ジュンペイにとっては心強かった。



「そうですよね。愛する人を疑うことは、自分自身に不誠実な心があるからですよね」



「ああ。たとえ裏切られたとしても、見返りなど求めずに信じ続け、愛し抜く。それが運命を共にする人への道理だと思う」



「はい」



ジュンペイは、つい数十分前までは、心に闇がかかっていたが、ヤナセの気持ちのおかげで、闇が消えて行き、晴れやかな気持ちが戻っていった。



「ヤナセさん、いつも力になってくれてありがとうございます。ヤナセさんに出会うことが出来て、オレは本当に幸せものです」



ジュンペイは、心の声をそのままヤナセに伝えた。



「おう。だてに老けていないだろ」



ヤナセは照れくさそうに言った。



それから二人は、一時間以上、熱く語り合った。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る