第9話 新婚生活編(5)

「出来ないって……どういうことだよ?」



ジュンペイは、ユキがどういった返答をしてくるのか、怖くて仕方がなかった。



「……だってさ、私たち『パケレンジャー』のゴールドとシルバーなんだよ。事の最中に出動要請しゅつどうようせいが入ったらどうするの? 主役クラスが二人も遅れて行ったら、街はどうなるの。そんな戦隊ものシリーズなんて、あってはならないでしょ」



ユキは、話しをはぐらかそうとした。そんな彼女の言動に、ジュンペイは、男としてショックを受けた。



「オレのこと、男としては見れないのか? それとも、好きじゃないのか?」



ジュンペイは、静かな口調で問いただした。



「そんなことは絶対にないよ。ジュンちゃんのことは世界で一番格好かっこういい男だと思ってるよ。愛してる。だから出来ないの。お願いだから分かって」



ユキは願うように言った。



「なんだよ、そんなことがあるかよ。ハッキリと言えよ。オレのこと、そんなに好きじゃないんだろ!」



ジュンペイは声をらげた。



「そんな怒鳴らなくたっていいでしょ! なんで分かってくれないの。 もう出ていって!」



ユキは泣きながら、さっきまで見ていた料理雑誌を手に取り、ジュンペイに投げつけた。



「ごめん……」



ジュンペイはユキの涙に動揺し、あやまると寝室を出てドアを閉めた。



「ユキ! ごめんな! オレが悪かったよ!」



ジュンペイは、もう一度ドア越しに謝った。彼は、ユキを泣かせ、傷つけてしまったことにショックを受けた。それほど間違った発言をしてはいないと思うのだが、強い罪悪感にさいなまれた。



ジュンペイは、リビングのソファーに座ると、テレビのリモコンを持ち、電源を入れた。そこには、サッカーの国際試合の映像が映し出されていた。



「勝負の世界に、負けは付きものか……」



ジュンペイは、画面に映る戦士たちに今の自分をダブだせていた。二人はその日、結局眠ることが出来ないまま、お互いに反省していた。



それから一週間が過ぎ、ジュンペイはいつも通り、会社へと出勤した。席へ着き、五分ほどするといつものようにヤナセが出社し、ジュンペイのもとへと来て挨拶を交わす。



「どうした、最近、全然元気ないじゃないか。大丈夫か」



ヤナセは、ここのところ表情の暗いジュンペイを心配した。ネクタイをいじるようなことなどは決してせず、そっと、机の上に栄養ドリンクなんかを置いたりしてサポートをしていた。



「ヤナセさん、いつも気遣ってくれてありがとうございます」



ジュンペイは、心から感謝している口調だが、顔は無表情である。



「まぁ、いつでも相談にのるぜ。無理すんなよ」



そう言うと、ヤナセは案の定、栄養ドリンクをジュンペイの机に置き、自分の席へと戻っていった。



午前九時をまわり、部長のアオキがオフィスに入ってくると朝礼が始まった。



「おはようございます。それでは、朝礼を始めます」



アオキの掛け声のあと、社員一同が挨拶をすると朝礼が開始された。今日の部長は、いつもとは少し雰囲気が違った。ロマンスグレーだった髪の毛の色は黒く染められ、いつもは前髪を下ろしているのだが、なぜらか今日はオールバックである。彼の横には、自社の制服を着た見慣れない美女が立っていた。透明感のある白い肌、つややか黒髪のロングヘアーで、上品なお嬢様といった顔立ちである。朝からツッコミどころ満載である。



「今日から、みなさんと一緒に働いてもらうことになるタカオカさんです。タカオカさん、自己紹介をお願いします」


ジュンペイは、暗い顔をして下を向いてしまっている。



「はい。今日から、派遣社員として皆さんと働かせて頂けることになりました、タカオカアヤと申します。会社の戦力として皆さんのお役にたてるよう、全力をくし、業務に取り組んでいければと思っております。よろしくお願い致します」



アヤが挨拶を終え一礼いちれいすると、社員一同、温かい拍手で彼女を歓迎した。



「おい、サクラギ。タカオカアヤさんだってよ。ちょっとした女優みたいな感じじゃないか?」



ヤナセは下を向いているジュンペイにウキウキとした口調で話しかけ、右肘ひじで軽くコミュニケーションをとった。



「ヤナセさん、朝から楽しそうですね。ウキウキした声で、女優だとかタカオカアヤとか……タカオカアヤ? どこかできいたような、なつかしい名前……」



そう言うと、ジュンペイは暗い表情のまま顔を上げ、タカオカアヤに目を向けた。



「……えっ? アヤ? えっ、ウソォ~!!」



ジュンペイは、思わず叫び声をあげざるにはいられなかった。



「どうした? サクラギ」



アオキが問いかけた。



「いっ、いえ。何でもありません」



「……サクラギ君?」



アヤが驚いた顔でジュンペイに尋ねた。



「おいっ、知り合いなのか?」



ヤナセは、興味津々きょうみしんしんといった口調できいた。



「えっ、まぁ~、知り合いというかなんと言いますか。なんというのかなぁ~」



「中学と高校の時の同級生です」



ジュンペイが、しどろもどろと言葉をにごしていると、アヤが答えた。
























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